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オンライン団体交渉は不当労働行為となるか?

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)
(写真:アフロ)

Q 組合側が対面での団交に拘る場合に、対面を拒否してオンライン団交の提案を行うことは不当労働行為となるでしょうか?

【解説】

 労働組合の団体交渉申し入れに対して、会社が正当な理由なくこれを拒んだ場合、不当な団交拒否として不当労働行為と評価されます(労組法7条2号)。これを、会社の誠実交渉義務、といいます。

 一方で、新型コロナウイルス感染症予防のもっとも基本的な手段として「三密」を避けることが挙げられていますが、団体交渉はまさに密閉空間において、密集した人員によって、密接な距離感で行われるものであり、典型的な「三密」状態と言えるでしょう。団体交渉クラスターを発生させないためにも、当面の間、対面式の団体交渉は行うべきではないといえます。

 もっとも、団体交渉権は、労使間の協議によって従業員の労働条件や待遇その他の事項についてこれを決めていくという、労働組合の憲法上の権利であり、これを軽視すると見られかねない態度は、上記の誠実交渉義務違反として、不当労働行為と評価される可能性があります。特に、今の時期においてはリストラや休業手当に関する団体交渉の必要性それ自体は高いと言えるでしょう。

 そこで、「三密」を避けつつ、実効性のある団体交渉を実現するという観点から、団体交渉はオンライン会議ツールを用いて開催することを検討すべきですが、実務的には次のようなケースがありえるところです。

労働組合の団交要求に対し、会社側が真摯にオンラインでの開催を提案したとしても、組合側が対面での団体交渉に固執し、オンラインでの開催は拒否するケースもあります。この場合、団体交渉が実施できなければ、団交拒否として不当労働行為(労組法7条2号)となるのでしょうか。

 この点、団体交渉は典型的な「三密」の場面であるため、感染拡大防止の観点からできる限りオンラインで行うべきことは既に述べた通りです。

 そして、会社側としては、ビデオ会議・電話・メール等の手段により、団体交渉に至らない事務折衝等を充実させ、労組側が議題を検討するに足る資料等は事前に交付したり、これについての会社の説明も十分に行い、必要な情報の共有に努めた上で、オンラインでの団体交渉を提案し、その必要性や準備・オンライン会議ツールの利用方法などについても十分に説明を尽くしたにも関わらず、労働組合側が対面団交にこだわり、結果的に団体交渉が開催されなかった場合は、コロナ禍における社会通念に照らし、会社として誠実にできる限りの提案をしていると評価されるものと言えるでしょう。

 確かに、書面による団体交渉のみであれば不当労働行為となる可能性があります(清和電器産業事件 東京高判平2.12.26、最判平5.4.6上告棄却)。

 しかし、オンラインでの団体交渉は書面団交とは異なり、実際に対面に近いコミュニケーションを実現できるだけの環境が整っています。また、オフラインでなければ実施できないという団交議題などは想定し難く、紙をどうしても手交する必要があれば後に述べる「ハイブリッド団交」も提案し得るところです。

 すなわち、オンラインでの団体交渉の場合、資料を事前にメールなどで共有しておくことにより、効率的な交渉を行うことができます。また、相手方に交付することが躊躇われる資料についてはオンライン会議ツールの「画面共有」機能により表示することが可能です。その際にスクリーンショットなど写真を撮られる懸念があるとする向きもありますが、撮影は禁止である旨述べたうえで、仮にそのような行為が発覚した場合は「正常な労使関係を築く上での信頼を大いに損ねる」として抗議し、その後の対応を検討すべきでしょう。

 なお、スクリーンショットを撮られる可能性も見越して、提示に留めたい資料は、生のデータや情報をそのまま掲載するのではなく、団交議題にかかる事項について、会社の見解やその根拠を説明するに必要な範囲で抜粋したり、データ上で黒塗りを入れるなど、適宜加工する等の工夫が必要です。

 また、当日その場でどうしても資料を交付する必要がある場合は交渉中にメール送信することもありますが、どうしても紙の資料を見せる必要がある場合も稀にみられます。そのような場合は、「ハイブリッド団交」が考えられます。ハイブリッド団交とは、対面ではないけれども対面のメリットを生かす団交方式です。具体的には、会社内における別々の会議室に労使双方が入室し(さらに会社側出席メンバー同士でも「密」を避けるために別々の部屋に分かれて入るケースもあります)、それぞれの場所からオンライン会議ツールに接続するというものです。この方式であれば、オンラインで団体交渉を行いつつ、万が一対面して資料を手交する必要があれば資料手交のみ、わずかな時間で対面して行うことが可能となり、感染拡大防止と団交の実という両面を実現することが可能です。

 とはいえ、脱ハンコ・脱紙文化が叫ばれる昨今においては、出来る限り「紙で渡さなければならない」という状況を改善するのが重要でしょう。

 また、前記裁判例も「団体交渉は、その制度の趣旨からみて、労使が直接話し合う方式によるのが原則であるというべきであって、書面の交換による方法が許される場合があるとしても、それによって団体交渉義務の履行があったということができるのは、直接話し合う方式を採ることが困難であるなど特段の事情があるときに限ると解すべきである。」としており「直接話し合う方式をとることが困難」な事情がある場合には対面団交でなくともよいという余地を残していますし、そもそも現在のオンライン環境において、団体交渉の効率的な実施、と言う観点から対面での団体交渉とオンラインでは決定的な違いがあるとは言えません。そして、現在のコロナ禍は対面での「三密」を避けるべき時期なのですから、まさに「直接話し合う方式をとることが困難」な事情があると言えるでしょう。

 以上より、会社がオンラインでの手段を提案しているにもかかわらず、組合が合理的理由なくこれを拒否して、対面での団交に拘り続ける場合には不当労働行為とはならないと解されます。

 なお、これはオンライン団交の場合の話であり、音声電話や書面のみであればコミュニケーションがスムーズにいかないとして不当労働行為となる可能性もなお存しますのでご注意ください。

その他、オンライン団体交渉の注意点につきましてはこちらのQ&Aを無料ダウンロードしてご確認ください。

https://kkmlaw.jp/news/we-have-released-the-practical-points-of-consideration-in-the-online-collective-bargaining-with-the-labor-union/

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒業後司法試験合格、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経てKKM法律事務所 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉、労災対応を得意分野とし、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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