スクエニ前社長が語る、変革期の経営・人事戦略【和田洋一×倉重公太朗】第3回

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スクウェア・エニックスの前社長和田洋一さんは、就任中、開発のスタープレイヤーに頼らなくても、継続的にタイトルを提供し続けることを課題に、社内の体制を変革していきました。人事の評価制度、賃金制度を変え、社内の勉強会や研修を行い、人材育成にも力を入れたそうです。人を伸ばすための人事とはどんなものだったのでしょうか?

<ポイント>

・人事制度は「例外のために原則を作る」

・人事が強い会社は伸びる

・新しい時代のゲームのビジネスモデル

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■スクエニのイメージを変えた『戦国IXA』

倉重:スクエニのF2Pで最初に当たったものは何ですか。

和田:『戦国IXA』です。あれは『ブラウザ三国志』のパクリです。ブラ三も含め、いくつか検討対象はありましたが、あえてスクエニが一番やりそうにもない分野を狙いました。スクエニが得意なのは、基本的に「君のために僕が犠牲になって世界を救う」という話です。それなら殺し合いに行こうと。

倉重:パクリ!(笑)。でも確かにスクエニが、という意味では意外性がありますね。

和田:新しいお客様の開拓にもつながるし、世界観が違い過ぎて、社内で隔離しやすい点も都合がいいと思いました。当時はスマホがありませんでしたから、PCブラウザです。ただ、当時のスクエニはPC向けタイトルが弱かったのです。

オンラインゲームのMMORPGを除けば、基本的にはPlayStationや任天堂にタイトルを出していましたから、PCで化けさせるノウハウがなかったのです。それでYahoo! の井上さんのところへあいさつに行き、直接外交しました。

「Yahoo!さんは、ウォレットで決済も強化したいのでしょう。これを課金ネタにすればいいではないですか」と押し売りのような形で始めました。企画が進むとますます『ブラ三』に似てきたので、さすがにパクリになってまずいと思ったのですが、プロデューサーの発案で『ブラ三』を作っている開発会社へ発注することになりました。これでパクリ懸念は解消です(笑)。

倉重:なるほど。コナミさんも課金モデルへ移行するのは随分早かったと思います。

和田:コナミさんはMMOはやっていませんが、携帯のF2Pゲームが早かったです。『ドラゴンコレクション』がいきなり大ヒット。「GREE(グリー)」で配信し、収益に劇的な貢献をしました。他方、DeNAさんは、マフィア・ウォーズ等のFacebookゲームをうまく加工し、大ヒット。現在のDeNAさんの基盤を作りました。両者とも2010年リリースで、モバゲー、グリーのF2P時代が始まったのです。

倉重:だんだん実績は出てきたということですか。

和田:はい。市場が見え始めました。

倉重:そうすると、現場やクリエイターの方々の反応も変わってきますか?

和田:やはり変わってきます。社内プロジェクトもある程度の成果が出始めたので、そのタイミングを捉え、隔離をやめて全社巻き込みに切り替えました。巻き込むときに徹底したのは、「単発のゲームを当てにいくのではない」ということです。開発だけではなく全社の機能を変えていく。つまり、会社の柱として立てにいくのだというアピールでした。

倉重:実際に組織として本格的に強くなるには何が必要かということですよね。

和田:そうです。会社の部分的機能が変わるだけでは駄目なのです。例えばスクウェア・エニックスは物も作りますし、販売やプロモーションもします。当然それを支えるITの社員がいて、契約や会計処理もあります。ですから、スクエニカレッジと称して、ゲーム開発か否かの部署に関わらず、東京在籍の社員人口の1割、約250人に短期集中研修をさせようということで、1組30人ずつ、2年間、3カ月ごとのローテーションで研修させました。

倉重:あらゆるジャンル、職種の人に、ある種横断的に研修を行い意思統一をするということですね。

和田:そうしないと会社の全体像が浸透しないのです。スクウェアもそうでしたが、ゲーム会社の勘違いは、「いいタイトルが当たればいい」というものです。それは経営ではありません。

倉重:それでは再現性がないですね。

和田:クリエイターはそれでも構いません。しかし経営者が「当たりましたね」では、「おまえは要らない」という話になってしまいます。Free to Play事業を確立した時は、「一発当たったとしても評価しない。組織として継続的に利益が出る状態になったことをもって評価する」と最初から宣言しました。

■全社を巻き込んで会社を強くする

倉重:この対談の読者の方は人事の方が多いですが、人事の巻き込み方はどのような感じで進めましたか。

和田:昔の『FF』や『ドラクエ』は3年から4年かけてこつこつ作り、その間は収益ゼロです。数年間はびた一文も入ってきません。発売するとドーンと売上が立ちますが、2カ月で終わります。

倉重:打ち上げ花火のような感じですね。

和田:あとはもう中古に回ってしまいますから、われわれにはびた一文も入ってきません。土の中に何年もこもって7日間ぴゅーっと飛んで死んでしまいます。まるでセミです。それがFree to Playになると、開発作業も重厚長大型とは異なりますし、リリースしてからも追加開発、運用業務が出てきます。もちろん、収益もその間、継続的に計上されます。会計処理も、契約の仕方も、人事も違ってきます。

とにかく、事業がこれまでとはまったく異質になるのです。その事を人事のスタッフに教えてあげないと、人事部として機能できません。

スクエニカレッジに人事スタッフも加え、新規事業の本質を学んでもらうと同時に、開発、マーケ等、他の部署のスタッフとも共に学び、悩む機会を作ったわけです。

倉重:人事評価も変わってくるということですか。

和田:はい。例えば家庭用ゲームであれば、リリース時に利益が確定しますから、そのタイミングで賞与を出します。一方、Free to Playゲームでそれをやると、追加開発や運用は避けて、次のタイトル開発に行きたがってしまい、続かないのです。

倉重:1個を出して、4~5年は楽しむものですからね。私も『星のドラゴンクエスト』を2年ぐらいしましたし、『ロマンシング サ・ガ・リ・ユニバース』は1年以上やっています。いつもデータ更新を楽しみにしています。

和田:リリース後に4~5年お客様と向き合うなどというのは、昔にはなかった事です。「継続することを評価する」という視点を持たないと成立しません。それから、運用となると個人より組織の貢献の度合いが大きくなります。

例えば家庭用向けの『FF』ならシナリオや音楽がすごくいい場合、キャラがすごく立っている場合もあります。あるいは、この間の作品ではAIが結構入っていたように、いくつかの際立ったファクターがあるのです。そういうところを評価します。

しかし、Free to Playは総力戦なので、あまり要素や個人にフォーカスし過ぎると、モチベーション管理が難しいでしょうね。

倉重:「スタープレイヤーが1人いればいい」というわけではないのですね。

和田:本当にチームプレイということになります。

倉重:コンシューマーとF2Pで必要としている人材像が違うということですね。

和田:全然違います。

倉重:そういう中では評価制度、賃金制度、あるいはどういう人を切って、どういう人を採用するかといった人事制度も全部変わってきますよね。

和田:そうです。ひるがえって、人事全般においては、制度自体は柔軟なものにしつつも、あまり変えないほうがいいと思っています。運用の柔軟性が確保できる簡素な人事制度をきちんと作り、制度は安定させておくのです。例外的なことは運用面で調節すればいいと思います。

倉重:その心は何ですか。

和田:本当に伸ばす人材の育成は例外処理であるべきだと思っています。しかし、「この場合はこう」「あの場合はこう」などと制度そのものに抜てきのルールを入れていったら大変なルールブックになり、誰も分からなくなってしまいます。

9割以上の人はルールどおりの通常処理で済ませられるからこそ、数%に対していろいろな解釈を施し、運用上でばーんと飛躍させることができるのだと思います。「例外のために原則を作る」という発想ですね。

倉重:そのタレントの扱い方についてですが、今の日本の労働法制度では、一度上げた賃金をなかなか下げられません。環境が変わり、賃金を上げた人の才能が要らなくなる可能性もあります。一気に引き上げるのは怖いと思いませんでしたか。

和田:怖いです。ですから、事故が起こらないように制度を原則とし、一気に引き上げるのは例外処理としていました。部下に任せていた部分もありますが、際立った抜てきは自分でしていました。

倉重:なるほど、抜擢登用する場合は自らされたのですね。

和田:いきなり報酬を2倍にしたこともありました。そういう時は一対一で詰め寄ります。「ここまで期待できるので2倍にする。ただし、できなかったら戻す。住民税は1年遅れになるから、万一に備えて貯金しておけ」と言いました。

倉重:税金がえらいことになりますからね。

和田:そこまで言ってあげないとね。実際バンカーでそんな経験した者は山ほどいましたから。

倉重:和田さんが自ら抜てきした人は大体期待どおりの成果を出してくれましたか。

和田:半分以上の打率は稼げたと思います。

倉重:期待したけれどもダメだった人を、実際に元に戻したこともあるのですか。

和田:あります。

倉重:もめませんでしたか?

和田:もめませんでした。少なくとも訴訟、刃傷沙汰はまったくありませんでした。

16~17年無事故でいられましたが、なかなか大変だったのです。

倉重:結局は納得させられたということですから、すごいです。

和田:率直によく話してあっておく事ですね。ペイの話は、後出しするのは絶対にダメです。

労基法の大原則に「予見可能性」がありますが、それの拡大解釈です。

倉重:組織として本当に強くなるという意味では、現場だけでは駄目で、人事、法務も巻き込むというのはそのとおりだと思います。

和田:人事は特にそうです。人事は経営そのものだと思います。

倉重:人事がきちんと経営方針を理解して、その方向を向いて仕事をするという話ですよね。この話を人事の人は本当に分かっていたほうがいいと思います。

和田:人事に強い会社はすごく伸びます。

倉重:人事が本当に大事な時代になってきています。

和田:本当にそう思います。生き残っている会社はやはり人事が強いです。

倉重:単に手続きや言われたことだけではなく、今の会社の方向を向き、必要なことをしているということですね。

和田:ベンチャーのCFOの仕事は、ひたすらベンチャーキャピタルからお金を引っ張ってくることだと勘違いされていますが、そうではありません。同じくベンチャーの人事といえば採用だと思われていますが、やはり重要なのは人材開発です。

倉重:どう伸ばすかですね。

和田:組織を円滑に運営するために、素地としての人材をどうつくるかという話です。ベンチャー界隈で話題になる人事の評価軸がずれていますね。「僕は1年で300人を採用したCHOです」と誇る人がいます。それは確かに大変だったと思いますが、その後退職が激しかったり、育たなかったりしているなら、無価値です。バイトであれば入れ替えがあるのは当然ですが、正社員も同じように考えてはいけません。きちんと正しい価値基準を言ってあげなければ、本当にいい人事は育たないのです。

倉重:経営理念・戦略を理解したうえで実行する人事を「戦略人事」と言ったりしますが、そういう考え方を持っている人が増えるといいと思います。

■これから生き残っていくゲームは?

倉重:これは個人的な興味ですが、これからのゲームはF2P、初回プレー無料あるいはダウンロード無料のようなものしか残っていかないのでしょうか。

和田:テクノロジー、サービスデザイン、ビジネスモデル、基本的にこの三位一体でゲーム産業は見ます。今おっしゃったFree to Playはビジネスモデルのところです。Free to Playをビジネスモデルとして採用しながら、いろいろなデザインのゲームを開発する事はあり得ます。ですからソーシャルゲームだけではなく、もっとバリエーションがあります。

倉重:何にお金を払うかは別ですよね。

和田:はい。また、今後のビジネスモデルはFree to Playだけかといいますと、サブスクも一部出てくるでしょうし、投げ銭やベッティングも出てくると思います。ポイントはコンテンツそのものではなく、ゲームをきっかけにした面白さ、経験にお金を払うということです。もうデータにお金を払う姿には戻らない事だけは確かですね。

倉重:今流行している『どうぶつの森』も、そういう方向性の一歩なのかもしれません。

和田:あのゲームも、Free to Playや投げ銭、ベッティングをビジネスモデルとして採用する事はいくらでもできます。

(つづく)

対談協力:和田洋一(わだ よういち)

1984年、野村証券入社。2000年、株式会社スクウェア入社。2001年にCEO就任。2003年から2013年まで株式会社スクウェア・エニックス(現スクウェア・エニックス・ホールディングス)CEO。社団法人コンピュータエンターテインメント協会会長、経団連著作権部会長なども歴任。現在は、メタップス、マイネット、ワンダープラネットの取締役、数社のアドバイザー等。