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【田代英治×倉重公太朗】「プロサラリーマン」第3回(人事異動とキャリア自律と不安)

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

倉重:田代さんのような新しい第3の道として、自分のキャリアと会社の異動の体制というのを、両立するフリーランスという道を見つけられたわけですけれども。一般論として、ジョブ・ローテーションというのは、いろいろな会社でやっていますよね。

そのとき、40代になって、ある程度専門性もできて、「さあ、この分野でやっていこう」と思っている人に対して異動を命じてしまう日本型雇用におけるジョブ・ローテーションってどうなんだろうというふうに、正直思ったりもするんですけれども、田代さんから見てどうですか?

田代:いや、全くそのとおりでして、私が今、こういう働き方をしているというのは、ジョブ・ローテーションがあるということが一番大きく影響していると思うんですよね。今、倉重先生がおっしゃったように、やっぱりある程度のキャリアを積んだ40代の半ばぐらいまで来たら、もうその後はやっぱり本人がやりたい仕事とか、一番適性がある仕事とかをある程度続けられるようにしたほうが生産性が高いと思います。

倉重:そこを突き詰めていくということですよね?

田代:そうですね。若いウチは、ジョブ・ローテーションがあっても、私はいいと思っていて、例えば20代や30代の頃は、自分が能力を発揮できる分野が自分でも分からないケースが結構あると思うんです。

そこの部門に行って、この仕事をやってみて、初めて「あ、俺にはこういう能力があったのか」とか、「こういうのが好きだったんだ」というのが、分かるケースがあるので、その中で自分の専門分野とかを見つければいいと思うんです。

 また、私は人事部時代の上司に、「2つ以上の専門性を持て」と言われたことがあるんですが、確かに、複数の部署を異動し、異なる業務を経験することによって、視野が広がり、幅のある経営人材に育つ効果もあると思います。

 だから、若い年代のジョブ・ローテーションを私は否定しません、むしろ個人的にはそれがあったからこそ、今の自分があるぐらいの感じなので、良いと思うんですが、中高年はまた別だと思います。

倉重:つまり、ジョブ・ローテーションの全てが悪いという話じゃなくて、最初は何が向いているか、どんなスキルがあるかも分からないし。現に新卒なんてスキルも何もないわけですから、ある程度、方向性を見つけるまでは、ジョブ・ローテーションでいろいろな仕事をやってもいいだろうということですね。

 ただ、せっかくある程度の専門性が身に付いた人をわざわざ異動させちゃうのは、ちょっともったいない、そんなケースもありますということになりますね。

田代:そうですね。だから、ジョブ・ローテーション制度として確立してしまうと、もう制度だから3年ごとに動かさなきゃいけないという、この決まり事の中にはまってしまいます。今後、異動政策をどのような形で運用していくのかということを見直さなきゃいけないんじゃないかなと思います。

 もう一つ指摘しておくと、今、長時間労働になっている会社の1つの要因として、このジョブ・ローテーションも影響があるんじゃないかなと思います。それは、異動があまりにも頻繁にあると、一時的な戦力ダウンの時期が頻繁に出現するということです。異動後のすぐのタイミングの人は、その業務に対するスキルや知識は低いですよね。

倉重:最初は慣れないですから生産性も低いですもんね。

田代:慣れない新入社員が、半年ごとに入ってきているような状態なので、そうすると、そのできない人に対して教える人も時間がかかるでしょうし、その本人も時間がかかってしまうので、長時間労働の1つの原因にもなっているんじゃないかなと、思っています。

倉重:なるほど。要するに、無駄が多いということですよね。

田代:無駄が多くなってしまいます。

倉重:その40代以降の異動の在り方というのを、あらためて見直す時期にも来ているんじゃないかということですね。

田代:来ていますね。

倉重:それは、異動の在り方のみならず、おそらく関わり方というか、雇用契約・業務委託契約など契約の在り方を含めてですよね。

田代:そうなりますね。そこを変えようとすると、今おっしゃったように、いろいろなところに波及してくると思うんです。人事制度、新卒採用なのか、中途採用なのかとか、もういろいろな日本型雇用の全てのパッケージをやっぱり変えていかなきゃいけないかもしれません。

倉重:だって今はもう、会社によっては「辞めた人でも、またいつでも戻ってこれるよ」という制度もあるわけですし、そういう中では、別に辞めて転職して戻ってくる以前に「フリーランスとして関わりたい」と言っている人がいるんだったら、それはそれで生かす道があってもいいですね。そういう意味では、今度は個人という側面にフォーカスして考えると、その「40代で独立なんてすごいですね」と言われるかもしれないけれども、逆に言うと40代だからこそできたという話ですよね。若いうちというよりかは。

田代:はい。私のパターンだと、会社でいろいろ学んできて、積み上げてきたスキルや知識をベースに独立した流れですね。

 ですから、やっぱり40代ぐらいまで、30代半ばでもいいんでしょうけれども、ある程度のそういう期間がないとなかなかその後の独立の展開というのは出てこないと思うんです。30代半ばぐらいから40代半ばぐらいまでが、いいんじゃないかと思っています。

 一方で、あまり高齢になっちゃうと、もうエネルギーがなくなって、シンドイかもしれません。

倉重:確かに。50過ぎると体力がキツくなってきますよね。

田代:そう。50過ぎて、例えば60に近い。例えば、定年で独立しようというのは、私もその年代に今は差し掛かりつつありますけれども、それは結構きついかもしれないです。若い、ある程度脂が乗り切った40代ぐらいが一番いいタイミングだと思います。

倉重:知識経験と体力のバランスがちょうどいいんでしょうね。

田代:独立するときに一つ思ったのは、その頃は、選択定年制というのがあって、50歳以上で辞めると、退職金が、例えば2年分ぐらい上乗せでもらえると。それをもらって辞めるというのも頭の片隅にありました。

倉重:そういった悩みはよく聞きますね。

田代:しかしそこで5年間待つのかと。そのような時間を過ごすのは耐えられないと。もうこのタイミングで自己都合退職金で辞めようと思いました。

倉重:でも、上積み退職金がもらえないのでだいぶ退職金は減っちゃいますよね。

田代:けれども、お金の問題じゃないです。

倉重:そういう意味では、40歳定年制なんていう説もありますけれども、ある程度の年代に達したら、あとはキャリアを再構築するという観点から、その退職金を全て会社都合にするとか、それぐらいのなんか度量はあってもいいかなと思いますよね。やっぱりそういう観点だと、独立する側としては、ある一つの興味を持った分野があるとしたら、どれぐらいの経験があれば、独立まで行けるかなと思います?

田代:大体10年じゃないですかね。10年ぐらいすると、その分野の専門家にはなれるということなので、それをベースにしてそれにプラスしてコミュニケーション能力とか、営業能力とかを付けていくと、独立できるんじゃないでしょうかね。

倉重:スキルがあっても、やっぱり会社の中で、会社の名刺で働くというのと、自分の名刺で、自分の名前で働くというのは、やっぱり違うと思うんですよね。そういう中で、自分の名刺で働くということを、田代先生もよくおっしゃっていますけれども、この点で気を付けるべきこととか、すべきことというのはありますか。

田代:独立する前に1年ぐらい、いろいろなところに行って、いろいろな人に会ってきました。それは本当に今まで知らなかったような人たちとのつながりでした。

具体的に言うと、独立したITのエンジニアの人たちとかさまざまな分野のコンサルタントをしている人たちでした。大企業のサラリーマンじゃないような人たちとも交流を持ったりして、彼らが何を考えているのかとか、そういうことを肌で感じることで、いろいろな学びを得ました。

 そこで名刺を出すときに、「何々会社の誰それでございます」と言うんじゃなくて、やっぱり自分の名刺をちゃんと用意して、違うもう一人の自分として、自分の名刺を持って、今後こういうことをやりたいんだと夢を語るとか、そういうことをやっていくと、だんだん会社の中では見えなかったものがだんだん見えてきて、独立するということは、こういうことなんだなと、実感として湧いてきたというのはあります。

倉重:今おっしゃった「もう一人の自分」というのは、会社と、それから家庭に加えて、もう一つ「自分のやりたいこと」みたいなイメージですよね。

田代:そうです。そのもう一人の自分が、見つかったというのが、それまではおぼろげながら独立すると考えてはいたんですけれども、かなりはっきりしてきて、イメージが湧いてきて、一気にその方向ににかじが切れたと思います。

倉重:このもう一人の自分探しというのは、これは会社にいながらできることですよね?

田代:そうです。在職しながら、会社が終わった後、夜間や休日にそういうセミナーとか勉強会に行くとか、会社ではない、あるいは家庭ではないところに行ってみると。

 それは、最初はすごく居心地が悪いんです。知らない人たちばかりで、特に、サラリーマンじゃない人たち、若い世代の人達が多くて。

倉重:Tシャツとジーパンを着た人たちに囲まれたらアウェー感ありますよね。でもそれが大事ということですよね。

田代:そうそう、ほとんどが若い人、口の利き方も知らないような人たち(笑)。

倉重:正直にいらっとすることもあったでしょう?

田代:いらっとするけれども、よく聞いてみると面白かったり、すごくわくわくするようなことがあったり。当時はちょっとブログが世の中に出始めた頃で、ブログで情報発信をするというのがちょうどブームになりつつあったんです。そのブログのやり方とか、「こういうふうに書いたら、アクセス数が増えるよ」みたいなことを言っているような人たちがいて、ブログの書き方とかメルマガの発信の仕方とかを一生懸命勉強しました。

 

倉重:あとは、あえてその居心地の悪い場所に行けということも重要と仰ってますよね?

田代:はい、居心地の悪い場所に行けと、アウェーに行けと。

倉重:これはどういう意図ですか。

田代:いつも同じようなメンバーで、ホームで戦っていても戦っていることにはならないと思っていて。あえてアウェーに身を置いて、なんか居心地悪いなという中で、いろいろなことがまた吸収できると思うんです。実は、私は今でもどちらかというと、非常に内向的な人間なので(笑)。

倉重:実は(笑)

田代:だからあまりその初めての場所って、本当は行きたくないし、行かずに済むんだったら、行かないかもしれない。けれども、それだと、もう家にこもっちゃって、新しい出会いもないし、新しい発想も生まれてこないんで、あえてそういうところに行って、なるべくいろいろな人と話すようにして、色々なものを吸収したり、刺激を受けたりするように心掛けています。

倉重:家庭と、会社と、学生時代までの友人とか地元の友人、これだけの付き合いをしていると、やっぱりそれ以上にはつながりは広がらないですよね。

田代:そうですね。仕事の面でも、多分、そういう狭い世界でしか生きていない、狭い世界に住んでいるようですと新しいアイデアも生まれてこないですね。例えば人事の企画だったとしても、今までやったことの焼き直しでは、時代にも取り残されるようなことになると思うんで、外からの刺激や活きた情報というのは、とても大事じゃないかなと思います。

倉重:そうなってきたときに、一番良くないのは、選択肢がないということですよね。つまり会社を辞めて、転職でもその独立でもいいんですけれども、常に自分はやっていけるぞという思いがある人というのは、よく「ポケットに辞表を入れて仕事をする」なんて言いますけれども、そういう人というのは、やっぱり思うようにやれる、思ったとおり仕事ができるから、どんな仕事をしていても強いですよね。

田代:そうですね。選択肢を持つのは大事ですね。

倉重:一方で、田代さんの場合は、実際に独立されて、でも前の会社、退職した会社とも、いまだに関わり続けていると。ある意味、社外の人事部長みたいなお仕事をされていると思うんですけれども、これというのは、どういう存在なんですか?

 いわゆる外部の顧問契約をしている社労士とは違うわけですよね。

田代:そうですね。その顧問契約で契約内容に限定されたお付き合いじゃなくて、もう少し広いお付き合いで、彼らが悩んでいることとかを、よく話を聞いて、こうしたらいいんじゃないかということで、ざっくばらんに話しながら彼らに伴走するというふうな役割を担っているかなと。

倉重:例えば今現在、その前職の会社で人事部長の方、人事課長の方がいらっしゃるけれども、やっぱり不安になったり、相談したかったり、でもわざわざ外部のコンサルの方に言うまでもなく、ちょっと聞いてほしいみたいなことがありますよね。

田代:そうです。まさにそういう相談というか、そういう関わり方が一番多いですね。本当に「ちょっと、他の人には聞けないんだけれども」みたいに。

倉重:「こういうの、どう思う?」ということですね。

田代:「どう思う?」ということとか、本当にいろいろありますね。多分、内部の人にも相談できないんじゃないかと思っていて。

倉重:逆に内部には言いづらいこともありますよね、。

田代:社内にもね。当然、外の人にも、全く外にも相談できない。だからさっき言った、価値は内部のことがよく分かっている外部の人間ということなんです。

倉重:まさに揺るぎない田代さんのポジションがありますね。

田代:はい。それは、今は前職の会社が、一番そういう形でお付き合いをしていますけれども、古い顧問先だと、独立当初から10年以上お付き合いしていて担当者も変わっていないところですと、それに近い形ではお付き合いしているかなと思います。

倉重:変化の激しい時代だからこそ、逆に変わらないポジションですよね。

社内の人は、ポジションがどんどん変わっていくけれども、田代さんという存在は常にそこにいるわけで。それが会社にとってもメリットになるということですね?

田代:そうですね。

倉重:でも、雇用契約じゃ田代さんを雇えないわけですから、雇用契約と言われたら、嫌だと言いますよね?

田代:今さらね(笑)。

倉重:副業禁止とか言われたら、嫌ですよね。

田代:そうですね。

倉重:それは、いろいろな複数の収入源があるからこそ、また自分としても自由を感じられるし、かつ良いものを、それが他の事例も知っているからこそ、またいいサービスも提供できるということですよね。

田代:はい。だから独立当初ではなく、もう十何年たった私というのは外からもいろいろ吸収していますから、それを中に還元するということもできますので、そういう価値もあります。過去のものをこうだったと、これはこういうことで、今はこうなっているんだという、過去のことも説明できるし、それだけでなく、外の状況も説明できるというのが強みです

倉重:単に生き字引で、「昔はこうだった」と言うだけじゃなくて、今は、最新、世の中のトレンドはこうですよと、そういう話まで含めた専門家として、社労士としての当然専門知識もあるしと。

そういう意味では、どんどん個人、フリーランスとしてスキルアップしているということですよね。

田代:スキルアップを常に心がけています。前職の会社は、人事部でもいろいろな採用、教育、人事企画、それから手続き、いろいろな仕事があるので、ある特定の分野だけの専門家じゃなくて、このいろいろな仕事の総合的な専門家にならざるを得ない、広く深くというのを求められているので、それを維持するためには、経験も積まなきゃいけないし、勉強もしなきゃいけないわけで、それなりに成長はしてきているかなというふうに思います。

倉重:でも、この独立というのは、じゃあ私も弁護士ですし、田代さんも社労士ですけれども、そういう資格がないとできないんじゃないですかとか、そういうご意見もあると思いますけれども、どうですか、誰でも独立はできますかね?

田代:そうですね。資格があったほうが、この資格を持っているから、これくらいの能力のある人だなという、そういうブランディングにはなりますけれども、なくても私は独立できると思っています。自分が会社で培ってきた、その専門分野のものを生かした形の独立、それは不可能ではないかなと。まあ資格はあったほうが、アピールするのにより分かりやすいということはあります。

倉重:資格があることによって、スキルの見える化はできますよね。

 あとは田代さんの著書の中でも、著書で『人事・総務・経理マンの年収を3倍にする独立術』、ここに著書があるわけですけれども、単に誰でも独立できるよと、立ち位置を変えるだけだということをおっしゃっていますけれども。

田代:立ち位置が変わるだけです。突き詰めると、雇用契約から業務委託契約に変えるだけだと思っていて、雇用契約で守られている反面、その指揮命令下で、会社の価値観で働くのがいいのか、あるいは、業務委託になりますと、独立した個人とした働きになりますから、自分の価値観である程度会社と対等に仕事ができるのがいいのか。そこをどう判断し、選択するかだと思います。

倉重:実際に独立して、年収が3倍になったわけですか(笑)。

田代:ちょっとこれはあおっています(笑)。少しは増えていますが…

倉重:そういう意味では、ほんの少しの勇気と覚悟を持てというふうにおっしゃっていますけれども、田代さんの場合の、勇気と覚悟とはどういうものです?

田代:勇気ね。やっぱりいろいろ強気なことも言ってきましたけれども、内心やっぱり不安なこともあります。

倉重:不安も当然ありますよね。

田代:はい。子どももその当時は中学生でしたらから、まだこれからというときでしたし、家内も専業主婦なんで、私がもう収入がなくなると、もうたちどころに家庭崩壊になっちゃうんですけれども。

倉重:ご家族も相当反対もされたんじゃないですか。

田代:そうですね。大企業のサラリーマンの道を自ら外れるということで、理解に苦しむと、家内はかなり抵抗しました。

倉重:どうやって説得したんですか?

田代:それは、正面からいつも言い続けることです。年商幾らぐらいを見込んでいるとか、数字で示したりして、ずっと説得をしていました。

倉重:銀行融資を受けるときみたいですね(笑)。

田代:はい。で、もう嫁のほうが折れまして。

倉重:それは単に金銭的に大丈夫かどうかだけじゃなくて、やっぱり自分の人生をこうしたいんだと、そういう思いをずっと伝えていったということですね。

田代:そうですね。それは正直、その計画みたいなのを立てましたけれども、それよりもやっぱり思いを伝えたというほうが良かったのかなと思います。

倉重:小手先でどう説得するかじゃなくて。

田代:そうですね。自分自身も、さっき言ったようにいろいろなその居心地の悪いところにも行ったりして、この人事コンサル業界とか、社労士業界とかもいろいろ見てきて、まあいけそうかなというのは思ったんです。最後は、「あ、これだったらいけるな」と根拠のない自信ですかね。

倉重:何を見てそう思ったのかにもよりますけれども(笑)。

田代:勇気と覚悟という話ですが、いわゆるマーケットリサーチ的なアウェーの場所に行ったりとか、勉強もたくさんしたりとか、いろいろなことを準備してきても、最後は飛び込めない人もいるわけです。ルビコン川を渡らない人もいるし、渡る人もいる。もう本当に、そのほんの少しの勇気を持って、そこを渡ると。

 そうすると、その渡った先には、違う景色が見えるというのは、ひょっとしたら渡ったから言えるのかもしれなくて、なかなか勇気を持てとかとか、覚悟を持てとか言っていますけれども、実際はそこに行ったことがないと分からない部分もあるので、ちょっと難しい。どう説明していいかは、正直、なかなか難しいですね。

倉重:常に渡ることが正解というわけでもないと思いますし、でも渡らないのが、要するに、正社員で居続けるのが正解というわけでもないんですけれども、少なくとも、この働くという価値観が多様化している中ではさっきも言いましたけれども、そういう選択肢を持つというのが、おそらく会社にとってもそうだし、労働者個人にとっても自分の身を守ることにもなるんだろうなと思います。

 やっぱりお金をもらっている以上は、みんながみんなプロフェッショナルであり、サラリーマンであっても、誰でもフリーランス的要素というのは持っているわけです。

田代:そうですね。あと、サラリーマンとフリーランスの間に流れる川は渡ったら渡りっ放しではなくて、また戻ってくるという選択肢もあるわけだから。

田代:別に渡りっ放しじゃなくて、またそれが、その世界が嫌だと思えば、会社員にまだ戻ってくる選択肢もあると思うんです。ですから、1回渡ってもいいんじゃないかと思いますけれどもね。

倉重:そうですね。やっぱりその行き来が自由にできるような流動性が高い社会というのは、もっとなんか自由でいいなと思いますね。

田代:そうですね。雇用なのか、業務委託なのかというのは、それほどもう重要じゃないんじゃないかという気もしています。

倉重:はっきり言って、多分、契約の形式の違いだけだと、金のもらい方が違うだけだと、そんぐらいまで割り切れるといいですよね。

田代:そうですね。どんどん境目はなくなってくるんじゃないですかね。

倉重:やっぱりテクノロジーによっても、Uberが出てきたように、Uber化する労働という形で、どんどん請負と雇用の境目が、曖昧になってくるんじゃないか、なんていうのも前回、濱口先生とも対談したんですけれども。それは、必ずしもテクノロジーに限った話ではなくて、一般労働者の自分のキャリアという観点からもだって会社にいたら、自分の意に沿わないキャリアでも従わなきゃいけないわけだから。やりたいものがあるんだったら、そちらのほうがいいというパターンも、それは当然あるだろうなと思うんですね。

田代:そうですね。

(第4回へ続く)

対談協力:田代 英治

社会保険労務士、株式会社田代コンサルティング 代表取締役

1961年福岡県生まれ。1985年神戸大学経営学部卒。同年川崎汽船株式会社入社。

1993年人事部へ異動。同部において人事制度改革・教育体系の抜本的改革を推進。

2005年同社を退職し、社会保険労務士田代事務所を設立。

2006年株式会社田代コンサルティングを設立し、代表取締役に就任。

人事労務分野に強く、各社の人事制度の構築・運用をはじめとして人材教育にも積極的に取り組んでいる。

豊富な実務経験に基づき、講演、執筆活動の依頼も多く、日々東奔西走の毎日を送っている。

〔主な著書〕

『ホテルの労務管理&人材マネジメント実務資料集』(総合ユニコム、2018年7月)

『企業労働法実務入門【書式編】』(共著)(日本リーダーズ協会、2016年4月)

『人事・総務・経理マンの年収を3倍にする独立術』(幻冬舎新書、2015年)

『人事部ガイド』(労働開発研究会、2014年)

『企業労働法実務入門』(共著)(日本リーダーズ協会、2014年) 他

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒業後司法試験合格、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経てKKM法律事務所 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉、労災対応を得意分野とし、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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