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【第4回】「AIに仕事を奪われる!?」経済産業省伊藤禎則×弁護士倉重公太朗

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

伊藤:AI時代って、実はある種ヒューマンタッチとかヒューマンインターフェースというものが、これまで以上に大事になってくるんですよね。

倉重:なるほど。昔のパソコンがない時代のオフィスから、パソコンがどんな会社にも今はホワイトラーで当たり前にあるわけですけれども、パソコンでタイプライターの人の仕事は確かに奪われたかもしれないですが、今、ほとんどの人がパソコンを使って仕事をしていますよねと。それと同じことですよね、これから起こることは。

伊藤:まったくです。今、たぶん働くということとほぼイコールで、何かしらのパソコンであったり、スマートフォンであったり、いわゆるITテクノロジーの恩恵を全く使わない仕事ってすごく少ないと思うんですよね。実はAIもそれと近くて、やっぱり拡張や増強という意味では、これから人間の力をより引き出すということに使われてくるんだと思います。

倉重:だから、何か、「AIに仕事を取られる」、「自分の仕事、大丈夫か?」なんていう議論がありますが、そうじゃないんですよね。

伊藤:じゃないです。これもよく申し上げるんですけども、もともと「ロボット」という言葉の語源は「強制された労働(forced labor)」という意味のチェコ語からきているわけですけれども、人間の仕事が、もし、AIやロボットに奪われるとすれば、それはとりもなおさず今やっている労働が強制された労働だから。本来は、強制された労働は、さっさとAIロボットにやってもらって、残る課題は、じゃあ、人間は「強制されてない労働」、つまり何をしなければいけないのかということですよね。

倉重:例えば、だからExcelに1つ1つ、こちらのデータをこちらに移していって表を作っていくというのは、もうAIにやらせて、別の分野に集中すればいいんですよね。

伊藤:それはもう、AIにやらせろと。

倉重:あとは人事戦略、成長戦略、企業としての。そして、個別のこの人に対してどう接しようか。そういう1つ1つのクリエイティブなことは人間がむしろAIの助けを借りてやっていけばいいじゃないかという話ですね。

伊藤:そうなんです。そうなってくると、ますます今まで以上に、「働く喜び」とか「働くことの価値」みたいなことが大事になってくるということなんです。

倉重:いいですねえ。そんな大きな国としてのロードマップを、じゃ、これから書かれようとしているということですね。

伊藤:はい、AIについて、これから、内閣府を中心に、経産省や文科省など政府としてロードマップを来春までに書いていくこととなります。

倉重:ここ何年ぐらいのイメージで書くんですか、それは。

伊藤:決めていません。決めてないんですけど、ただ、すごく技術革新のスピードが速いですからね。

倉重:そうですよね。5年後にどうなっているかなんて分かりませんもんね。

伊藤:分からないですね。まず当面、政府として、あるいは国のインフラとして何をしなければいけないということを中心に書くことになると思います。

倉重:いいですね。面白そうですね。

伊藤:これは働き方改革からの1つの自然の流れとして、AIということにたぶん帰着するんだと思います。

倉重:最終的にはそうですよね。結局、人間がやらなければいけない業務って何なのかっていう話になっていきますからね。だから「少子化で労働力も足りないし、さらに労働時間の上限規制も入って、これ、大丈夫か?」と。「外国人を入れなきゃヤバいんじゃないか?」みたいな議論もありますけれども、「もっと何かテクノロジーで合理化すれば足りるんじゃねえ?」っていう議論もありますね。

伊藤:逆に言うと、これも世界史の長い歴史の中では、人口減少の局面って幾つかあるわけですね。有名なのは14世紀のヨーロッパで、「ペスト(黒死病)」ですごい人口が減ったんですよね。これはもう大変な勢いで人口が減って、どうなるかと。ところが、歴史的には面白い現象が起きていて、やっぱりこの期間に生産性が急激に上昇しているんですよね。それはなぜかというと、当時、農奴というものが一般化していて、荘園の中に領主さまがいて、小作人なり農奴がいてということだったわけですけども、ものすごく単純化して言うと、すごい勢いで人の数が減ったので、農奴側の「人」としての価値が急激に上がっていったんです。

倉重:なるほど、なるほど!

伊藤:で、農奴解放が起きたわけですね。自作農に転換をし、自作農に転換したことによって、これはいろいろな諸条件が結果としては相まったわけですけれども、自作農でいろいろ自分で頑張れば、最終的に領主に一定額のお金さえ納めれば、あとは自分で使えると。それによってまた貨幣経済が発達をし、そして、何と言っても農業革命が起きて、やっぱりインセンティブがあると人間、頑張るわけですね。

倉重:創意工夫をするようになる訳ですね。

伊藤:それが実は、まさにテクノロジーを活用したことによってそれが引き出されたと。AIでは、そのアナロジーで言えば、全く同じことが起きるということではもちろんありませんけれども、これからの日本はものすごい勢いで人口が減ります。人口動態はすべてのシミュレーションの中で最も確度の高いシミュレーションなので人口が減るのは間違いないわけですね。

1つのシナリオは、実はそのテクノロジー、これはAIとデータで象徴される「第4次産業革命」ということになるわけですけども、この活用がうまくいけば実は生産性は上がる可能性が非常に高い。しかも、先ほどのアナロジーで言えば、働いている個人の立場が上がるのですよね。上がるというか、正確に言うと解放されるんです。実は、これが今までの働き方、旧来の、画一的な、言ってみれば企業と働く人の関係がやや「御恩と奉公」に近い非常にリジッドな1対1の関係、これはお互い、相互、互恵的だったわけですけれども、そういう関係だったのが、今は結構その御恩のほうが弱くなっていて、昔から社宅に生まれ、そして、その会社の保養所で夏休みは遊び、医療・年金まで会社が面倒見るということで……

倉重:体育祭もあり。

伊藤:運動会もあり(笑)。

倉重:お祭りもあってみたいなね。

伊藤:時代が、だいぶもう変わってきていますよね。

倉重:そうですね。

伊藤:でも、いまだに奉公が常態化しているということがたぶん変わってきて、実は大きな流れとして言えば、先ほどのパーソナライゼーションだとか選択肢というのは、今申し上げたように、特にこの日本という国だけで見れば人口が減るというこの局面において、言ってみれば人手不足ということなわけですけれども、これが、しかも短期ではなくて構造的な変化であることによって、人の立場がどんどん解放されてくると。それが、ある種の極端な例としては、1つの会社に閉じこもっている雇用という形態ではなくて、昔の言葉で言うとフリーランスというような働き方も出てくると。ただ、これは先ほど倉重先生のおっしゃったように、でも、今までの日本の社会制度、これは労働法令も含めて、これはいわば「御恩と奉公」を前提として組まれている歴史的な経緯があるので。

倉重:労働法の根幹が高度経済成長期以来変わってないからですね。。。。

伊藤:そこは全体をトータルパッケージで見直していく必要があるんだと思います。

 (最終回へつづく)

【対談協力】 

伊藤 禎則 氏  経済産業省 商務情報政策局 総務課長

(略歴)

1994年 東京大学法学部卒業、入省。米国コロンビア大学ロースクール修士号、NY州弁護士資格取得。エネルギー政策、筑波大学客員教授、大臣秘書官等を経て、産業人材政策室参事官として、政府「働き方改革実行計画」策定に関わる。兼業・複業、フリーランス、テレワークなど「多様な働き方」の環境整備、リカレント教育、HRテクノロジー推進などを担当。2018年7月から現職。経産省のAI(人口知能)・IT政策を統括する。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒業後司法試験合格、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経てKKM法律事務所 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉、労災対応を得意分野とし、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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