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「コロナのとき、あなたはどう立ち向かいましたか?」。大打撃を受けた大阪ミナミ・道頓堀ホテルの苦闘

國本和成ライター・ディレクター
道頓堀ホテルグループ 株式会社王宮 専務取締役 橋本明元さん ※筆者撮影

-道頓堀ホテルグループ 橋本 明元さんインタビュー(前編)-

令和元年から続くコロナ禍の打撃をまともに受けた観光・宿泊業界。とりわけインバウンドに沸いていた大阪はコロナ禍による落差が激しく、その傷跡は依然として深く残っています。そんな大阪のミナミ(難波・心斎橋周辺)エリアを中心に宿泊業を営む株式会社王宮の橋本 明元氏は、業界の枠を超えて大阪・関西のビジネスパーソンに名の知れた存在。インバウンドの波をうまく経営に取り込んできた橋本氏は、事業を直撃したコロナ禍に何を思い、どう向き合っているのか。2回連載でお届けします。

(後編はこちら)

https://news.yahoo.co.jp/byline/kunimotokazunari/20220705-00303648

インバウンド客に絶大な人気を誇るミナミの名物ホテル

道頓堀ホテル。大阪人にはおなじみのインパクト抜群の外観。※筆者撮影
道頓堀ホテル。大阪人にはおなじみのインパクト抜群の外観。※筆者撮影

橋本さんが専務を務める株式会社王宮 道頓堀ホテルグループは、1970年に創業し、現在は大阪と沖縄で4軒のホテルを運営。2008年からインバウンドにターゲットを絞ると、「日本の文化とおもてなしを体験できるホテル」として、海外客から圧倒的な支持を受けるまでに成長しました。

ザ・ブリッジホテル心斎橋
ザ・ブリッジホテル心斎橋

大阪逸の彩(ひので)ホテル
大阪逸の彩(ひので)ホテル

しかし令和元年から続くコロナ禍に入って状況は一変。ミナミの通りは外国人ばかりか、日本人客の姿もまばらになるなど、宿泊・観光業界は戦争以来最大ともいえる苦境に陥りました。

特にミナミはもともと出張やビジネス利用が少ない上に、インバウンド需要を当て込んで宿泊施設が乱立。インバウンド、ビジネス出張ともに激減する中で、道頓堀ホテルグループも1年間の完全休業に追い込まれます。

橋本「他社の例に漏れず、当社も苦しんでいるのが正直なところ。ただ幸い雇用調整助成金をいただけたこともあり、スタッフは一人も解雇せずに済んでいます」。

飛ぶ鳥を落とす勢いの事業成長から、一気に休業へ。苦しいはずの経験を語る橋本さんですが、不思議にその表情は明るく、話しているこちらが元気になるような印象を受けます。それもそのはず、コロナ前から独自に経営哲学を構築し、「やらされ感」漂う社風を改善して急成長を果たしてきた橋本さんは、経営者向けセミナーで講師を行うなど、業界を超えて名の知れるビジネスパーソン。コロナ禍に入って「何もしてなくても涙がこぼれる」ような精神状態に陥るものの、2週間後にはスパッと切り替え、攻勢へと転じます。

人は誰かの役に立つことをやりたくなるもの

橋本さんはまずコロナ禍に取り組むべきことを「4本柱」にまとめ、スタッフと共有しました。

①状況が厳しい中でも、売り上げが1円でも上がる方法を考える

②将来を見据えた「望遠鏡」的な取り組み

③研修

④地域貢献

①で話題になったのが「ホテル一棟貸し」プランです。きっかけは大阪で毎年開催される高校ラグビー大会の出場校から依頼されたこと。選手はおろか指導者や引率の方に1人でも感染者が出ると即出場辞退という状況で、外部の人と接することが無いホテルの1棟貸しは安心でき、ホテルにとっても効率的。

橋本「ちょうどその頃はスタッフから『専務、いつになったらオープンできるんですか?』と聞かれて『きっついなぁ』と思っていた頃でしたから(笑)、お役に立てるならとはじめることにしたんです」。

合宿以外にも企業研修や、一般のホテルでは断られることが多いコスプレ団体の利用もあるのだとか。

②の「望遠鏡」では、コロナ禍にあって新卒採用を継続し、18名を採用。③の研修でも2年半にわたってほぼ毎日オンラインや対面で実施。

スタッフ向けの理念研修の様子
スタッフ向けの理念研修の様子

そして④の「地域貢献」では、語学力に秀でたスタッフの力を生かした独自の活動を展開。近隣の飲食店・マッサージ店などのメニューの無料翻訳サービスを行い、大阪のシンボル、通天閣の歴史解説テキストもスタッフが翻訳しています。他にも外国語教室を開いたり、不要なものを持ち寄ってバザーを開催し、収益を近隣の医療機関に寄付したことも。

コロナ禍で開催したフリーマーケット①
コロナ禍で開催したフリーマーケット①

コロナ禍で開催したフリーマーケット②
コロナ禍で開催したフリーマーケット②

橋本「国から助成金をもらっているので『働かずにお金がもらえる』と思う人もいるかもしれませんが、幸い当社にはそんなスタッフはいませんでした。やっぱり人は、何かを学んだり、誰かの役に立つことをやりたくなるものですね」

橋本さんと新人スタッフ。入社1年目ながらはきはきと自分の考えを述べる姿が印象的
橋本さんと新人スタッフ。入社1年目ながらはきはきと自分の考えを述べる姿が印象的

あのときどう行動したか

すぐに実践できるものから、長期的な計画に沿ったものまで、あらゆる角度から自分たちのできることを探し、実践してきたコロナ禍の2年半。多くの経営者・ビジネスパーソンが今だに出口を探しあぐねる中で、橋本さんのポジティブな姿勢と粘り強い実行力は一層際立って見えます。

橋本「将来『あなたはコロナ禍で何を考え、どう行動しましたかと』と、全ての人が問われる時代がくると思っています。ちょうど年配の方が子どもや孫に戦争時代の経験を聞かれるのと同じですね。私も偉そうなことを言える立場ではないのですが、それでも『あのとき少なくとも自分は逃げなかった。やるべきことを全力でやった』と言いたい。それだけしか考えていないんです」。

講演会で思いを語る橋本さん ※写真は新型コロナウイルスの感染拡大前のもの。
講演会で思いを語る橋本さん ※写真は新型コロナウイルスの感染拡大前のもの。

後編では今後のビジネス展開や、過去に受けた屈辱、自身を貫く使命など、まだまだ橋本さんに迫ります。

https://news.yahoo.co.jp/byline/kunimotokazunari/20220705-00303648

【道頓堀ホテルグループ】

道頓堀ホテルグループ 株式会社王宮

https://dotonbori-group.com/

道頓堀ホテル

http://dotonbori-h.co.jp/

ザ・ブリッジホテル心斎橋

https://bridge-h.co.jp/

大阪逸の彩ホテル

http://hinode-h.com/

沖縄逸の彩ホテル

https://hinode-h.com/okinawa/

※「筆者撮影」表記のない写真は全て道頓堀ホテルグループ提供

ライター・ディレクター

國本 和成  Kazunari Kunimoto株式会社knmt 代表大阪在住。1978年生まれ。関西を中心にビジネス、教育・研究、地域や食などさまざまなテーマで執筆・ディレクション・編集活動をしています。Web/Booklet/Movie など、媒体を問わず対応します。

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