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米国株は「バブルへGO!?」=FRBのハト派転換が原動力に

窪園博俊時事通信社 解説委員
最高値更新に沸き立つ米株式市場。(写真:ロイター/アフロ)

 米株市場の優良銘柄で構成されるダウ工業株30種平均が史上最高値を更新している。原動力は米連邦準備制度理事会(FRB)の政策スタンスがハト派に転換したことだ。米経済はなお回復局面にあるのに緩和姿勢が強まり、株価は上値を追う構図となった。市場では「『バブルへGO!!』となるのではないか」(大手運用機関のマネージャー)との声が聞かれる。

昨秋、トランプ大統領の仕掛けた「貿易戦争」で株は下げたが…

 ダウ平均が直近で史上最高値を更新したのは今月3日だった。同平均は前日終値比179.32ドル高の2万6966.00ドルとなり、昨年10月3日以来9カ月ぶりに史上最高値を更新して終了した。その後、いったん調整局面となったが、再び騰勢を強め、11日に2万7000ドル台に乗せ、12日の終値は2万7332.03ドルと高値を更新した。

 高値を更新するまでの株価推移を簡単に振り返ってみよう(下図参照)。昨年10月頃から急速に下げたのは、保護主義を掲げるトランプ米大統領が中国との「貿易戦争」を仕掛けたからだ。これにより「貿易が停滞して世界経済が委縮する」との懸念を強めた内外株式は下落基調が強まった。

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 だが、ダウ平均は昨年末の2万2000ドル前後を底値に切り返し、最高値を更新するに至った。この間、貿易戦争の悪影響が懸念されたが、米経済は底堅い展開にある。米実質国内総生産(GDP)は減速気味だが、今年1-3月期は3%前後の伸びを維持。失業率も3%台後半の低水準で推移する。

実体経済は底堅く、株価は戻り歩調。FRBの緩和スタンスが上昇に弾み

 つまり、貿易戦争を懸念して株価は下げたものの、実体経済は底堅く、株価は戻り歩調となった。そして、株価を最高値に押し上げる原動力となったのがFRBの金融政策だ。昨年秋の株安が始まった頃はまだ利上げ路線だったが、この数か月で緩和方向に転じて株価上昇に弾みをつけた。

 FRBはなぜ緩和方向に舵を切ったのか。表立って認めていないが、「トランプ大統領の恫喝が効いたのだろう」(日銀OB)と推測される。また、株価が一時期下がったことで利上げを継続する自信が揺らいだとみられる。さらに、「貿易戦争の悪影響を過度に警戒した」(大手邦銀)のだろう。

経済が悪化してもいないのに緩和方向に。株高は当然、との声も

 結局のところ、トランプ大統領の仕掛けた貿易戦争は、実体経済にさほど影響せず、一時動揺した株価はあっさりと持ち直すことになった。唯一、大きな影響を受けたのがFRBの金融政策スタンスだった。実体経済が悪化してもいないのに緩和方向になったのだから、ある意味で「株価が上がるのは当然」(大手運用機関の幹部)と言えよう。

 FRBは年内に「三回、四回の利下げを行う公算が大きい」(大手邦銀アナリスト)という。経済が底堅いのに利上げ路線を利下げ路線に転換し、どんどん利下げするのだから、「米株はバブルになってもおかしくない」(銀行系証券アナリスト)との声が聞かれる。皮肉なことだが、「貿易戦争」に一番おびえたのがFRBで、金融緩和を大盤振る舞いしたのかもしれない。

時事通信社 解説委員

1989年入社、外国経済部、ロンドン特派員、経済部などを経て現職。1997年から日銀記者クラブに所属して金融政策や市場動向、金融経済の動きを取材しています。金融政策、市場動向の背景などをなるべくわかりやすく解説していきます。言うまでもなく、こちらで書く内容は個人的な見解に基づくものです。よろしくお願いします。

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