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バブル崩壊に追われた平成経済、令和は新たな発展となるか

窪園博俊時事通信社 解説委員
「国の内外、天地とも平和が達成される」とされた平成だが、経済は激動だった。(写真:Fujifotos/アフロ)

 今月で平成の30年が終わる。この間、インターネットの発達とスマートフォンなど通信機器の普及で生活は格段に便利になった。一方、経済動向は冴えなかった。何度かの好不況を繰り返したが、基本的には「バブル崩壊の後始末に追われた」(日銀OB)のが実情だ。キーワードは「不良債権問題」、「デフレ」で、取材を振り返っても悲惨な時代だったとの印象が強い。令和の時代になって後始末が終わり、新たな発展が望まれるが、果たしてどうか。現時点では、残念ながら明るい展望は描きにくい。

ざっくり言えば、日経平均はピークからおおむね半減した格好

 平成の経済をデータで捉えるなら、日経平均株価のチャート(下図)が最も分かりやすいだろう。平成元年(1989年)末に3万9千円近くの天井を打った後は崩壊の一途をたどった。平成15年(2003年)には7千円台に落ち込み、いったん浮上したが、平成20年(08年)に再び7千円台。そこから持ち直し、この数年で2万円台を回復してきた。ざっくり言えば、日経平均はピークからおおむね半減した格好だ。

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 不動産も似た推移となり、株価も含めた資産価格のデフレは経済の大きな下押し圧力となった。ただし、経済水準も同様に落ち込んだわけではない。平成元年度の国内総生産(GDP)は名目で約427兆円だったが、平成29年度は約547兆円に増加している。山一証券などが破たん(下の写真、会見する当時の野沢社長)した金融危機(1997年)、米大手金融リーマン・ブラザーズ破たんによる世界的な金融危機(2008年)の時期はマイナス成長となったが、そこを除くと経済は(実感しにくい向きも多いだろうが)緩やかながらも成長を続けた。

写真:ロイター/アフロ
写真:ロイター/アフロ

日銀は総じて緩和を続け、政府は拡張財政を継続

 強烈な資産デフレが発生しながらもなぜ経済が成長したのか。世界の経済成長の恩恵を受けたほか、政府・日銀の景気刺激策が落ち込みを防いだからだ。まず、日銀の金融政策は、微調整として金利が引き上げられた時期もあったが、総じて緩和策が追求された。政策金利は平成の早い時期にほぼゼロ金利状態となり、以降、非伝統的政策の領域に突入。この数年は大規模な量的緩和を経てマイナス金利に至った。

 一方、政府は財政刺激策を続けた。消費税引き上げなど緊縮的な措置も取られたが、基本的には財政は拡張傾向だったと受け止められる。なぜなら、財政出動を続けた裏腹として政府債務が積み上がったからだ。平成元年度の一般会計の歳出は60兆円台だが、その後は増加傾向が続き、この数年では100兆円前後で推移している(下図参照)。これに対し、税収は平成元年度の60兆円前後をピークに減少。40兆円を若干下回った後は回復し、足元で60兆円前後まで戻った。

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「まずまずの生活を送っているが、実は借金依存」

 本来、税収が減るなら歳出も抑制すべきだが、バブル崩壊後の経済は長期の低迷が続いたため、歳出は増加傾向を余儀なくされた。税収と歳出のギャップは、借金である国債の発行によって埋められた。つまり、政府は借金を重ねながら歳出を増やし、この数年は高水準を維持。これを日銀が超緩和策で側面支援している構図だ。日本経済は外需を取り込みつつ、政府・日銀の刺激策にテコ入れされた状態が続いてきた。

 これを家計に置き換えると、「まずまずの生活を送っているが、実は借金依存だった」(大手シンクタンクのアナリスト)というわけだ。健全な生活を送るには、借金を減らす努力が求められる。生活費を切り詰め、収入を増やす。一般会計においては、負担の重い社会保障や地方交付税などを削減。税収を増やすために消費税は大幅に引き上げられことになる。令和の時代は、平成のツケを払うことになると考えられる。

途方もない借金を抱えて令和を迎える日本経済

 政府の借金(公債残高)は平成30年度末で883兆円前後に達する見込みだ(下図参照)。一般会計の税収の約15年分という。家計に置き換えると、年収の15倍もの借金に相当する。日本経済は途方もない借金を抱えて令和を迎えようとしている。今後取るべき道は二つしかない。一つは、前述のように平成のツケを払うために窮乏生活に耐えるというもの。困難な選択だが、財政への信頼感は維持されるだろう。

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 もし、借金依存を続けたら? 警告的に答えるなら「悪性インフレが起きるだろう」の一言で済ませられるが、実はそう簡単ではない。悪性インフレが起きるとしても、「その時期は見極めがたい」(大手邦銀幹部)のだ。日本の債務残高を国際比較(対GDP比、下図参照)すると、この数年は断トツに高い230%台で推移している(国際比較では短期債や借り入れも含まれ、債務残高は1300兆円近くになる)。普通の国なら国債価格が暴落し、悪い金利上昇が起きるところだが、日本はビクともしない。

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当分の間は、借金を続けても特に問題はない、と考えられるのだが…

 当分、平成の延長で借金を続けても特に問題はない、とも考えられるのだ。「じゃあ、そうすればいい」と思うかもしれないが、借金生活を永遠に続けることはできない。どこかで悪性インフレが起きる臨界点はある。それが対GDP比で300%か、もっと上なのかは断定できないが、金融市場では「国債が暴落する臨界点はある」(大手運用機関幹部)との見方が強い。

 問題は、その臨界点を超えると「急激な財政緊縮を行う以外に対処方法がない」(財務省幹部)ことだ。突然の破たんリスクに直面し、一気に貧困生活に陥る。従って、借金を続けた挙句の破たんに怯えるより、健全化に努めた方がいい、とは言える。令和の経済は、平成に背負ったツケを少しずつ返した方が良さそうだ。そう考えると、経済は地味な展開にならざるを得ない、というシナリオが大方のコンセンサスであろう。【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

時事通信社 解説委員

1989年入社、外国経済部、ロンドン特派員、経済部などを経て現職。1997年から日銀記者クラブに所属して金融政策や市場動向、金融経済の動きを取材しています。金融政策、市場動向の背景などをなるべくわかりやすく解説していきます。言うまでもなく、こちらで書く内容は個人的な見解に基づくものです。よろしくお願いします。

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