麻生財務相が語る「通貨戦争」の真実=日米激突の回避策は…

国会で答弁する麻生財務相(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 これまで為替相場について何度か解説したが、タイミングよく麻生太郎・財務相が国会答弁で近年の「通貨戦争」の真実を語ってくれた。その答弁内容を紹介しつつ、今後、日米が通貨戦争に陥るのを回避する策があるのかを考えてみたい。結論としては、両国とも為替から距離を置き、財政政策にシフトした方がよい。

「裏口入学とは言わないが、(米国は)金融を緩め、結果的にドル円は一挙に70円台になった」

 麻生財務相は15日午後の衆院財務金融委員会で、伴野豊氏(民進)から米国との通貨交渉を問われ、まずリーマン・ショック後の経緯を以下のように詳述した。

 「2008年のリーマン・ブラザーズ破綻を受け、日本から国際通貨基金(IMF)に約10兆円を融資した。その時に三つの条件を付けた、通貨の切り下げ競争はしない、関税を切り上げない、経済をブロック化しない。これで(主要国は)合意した。ところが、裏口入学とは言わないが、(米国は)金融を緩め、結果的にドル円は一挙に1ドル=120円から70円台になった。(対抗して)日本も切り下げとなると、戦前と同じになる。(そうはせずに)日本は頑張った。日本が極めて厳しい状況となる中、先頭を切って(切り下げを)やったのがアメリカとイギリスで、一番いいかげんだったのではないか。それを忘れてもらっては困る、ということをアメリカ人の担当に私は何回も言った。今回もそういう話なったら、そこからスタートしなければいけない」

 かいつまんで当時を振り返ると、麻生氏は総理として世界的な金融危機に直面した。当初、サブプライム問題を過小評価していた米国は、壮烈なバブルが崩壊するとは予想もせず、リーマン・ブラザーズを破綻させてしまった。バブル崩壊を経験済みだった日本は緊急融資の必要があると即断し、実行に移したわけだ。ところが、米国の連邦準備制度理事会(FRB)は量的緩和に突入し、ドル安を進行させた。米国は抜け駆け的に通貨安で不況を乗り切ろうとし、そのあおりで日本は円急騰に苦しんだ。

「米国は、ドルを安くしたい、と言いながら、FRBは金利を上げている。言っていることと、やっていることが全然違う」

 麻生財務相が最後の部分で「今回もそういう話になったら、そこからスタートしなければいけない」と述べているが、これはトランプ政権がドル安を志向するなら、米国が身勝手に通貨安に依存した「前科」を持ち出すことを示したものだ。トランプ政権が「前科」を恥じるかどうかは不明だが、少なくとも米国のドル安志向がご都合主義であることを思い起こさせる必要があるのは言うまでもない。

 麻生財務相はまた、同委員会でトランプ政権の金融・通貨政策の矛盾も指摘している。具体的には以下の通りだ。

 「米国は、ドルを安くしたい、と言っている。そう言いながら、FRBは金利を上げている。金利を上げると、為替は普通、高くなる。言っていることと、やっていることが全然違う、という感じは正直ある。(ドル安にすると)言われたら、まず最初に(指摘すべきは)、『(金利を上げて)ドル高政策をやりながら、(ドルを)安くしろ』という矛盾点であろう」

 この点は、「トランプ政権の円安批判は正しいのか=ぬれぎぬを着せられた日銀の悲劇」でも指摘した通りで、麻生財務相の認識はまったく正しい。「ドル高・円安は、日銀の金融緩和を受けた円安進行ではなく、FRBの利上げ観測によるドル高進行によるところが大きい」のである。トランプ政権がドル安にしようとしたら、金融政策と通貨政策が真逆になっていることを思い知らせるべきだ。

日米双方とも為替を争点とせず、それぞれ財政政策にシフトすべし

 ただし、米国が金融・通貨政策の矛盾を正し、FRBの利上げを阻止した上で本気でドル安を目指すると、ドル円はその通りに動く。日本は介入を繰り出したとしても、過去と同様に基軸通貨の下落を十分に阻止することはできないだろう。では、どうしたらよいのか。それぞれマクロ政策の運営において、為替を争点にすることをやめるべきだ。

 むしろ、相互に財政政策に軸足を置いた方がよい。米国はもともと低成長・低インフレに陥り、財政出動の必要性が叫ばれていた。米国は完全雇用に近く、財政出動を強めるとそれなりにインフレ圧力は高まる。これに加えてドル安を志向すると、為替面の刺激がインフレを高進させ、結果的にFRBの大幅利上げが必要になる。

 インフレに対して後手に回る利上げは、十分に効かない。度重なる利上げは、経済の落ち込みを深くし、それによってインフレが沈静化するという悲惨なパターンとなりやすい。つまり、財政出動を行う際にFRBに機動的な利上げを許し、それに伴ってドル高が進めば、為替面の引き締め効果がインフレを制御すると捉えた方がよい。

 一方、日本としては、日銀の金融緩和に依存するのは止めるべきだ。マイナス金利は金融機関の収益に打撃を与え、「副作用が大きい」(日銀OB)だけだ。また、為替にはさほど効かないにもかかわらず、米国から通貨安依存とみなされ、不信を招く。むしろ、デフレ脱却は財政政策にシフトさせるのが望ましい。これにより内需が刺激されると、輸入が増大し、貿易不均衡も是正される方向となる。

 通貨戦争を回避するには、日米双方とも財政を活用した方がよい。

1989年入社、外国経済部、ロンドン特派員、経済部などを経て現職。1997年から日銀記者クラブに所属して金融政策や市場動向、金融経済の動きを取材しています。金融政策、市場動向の背景などをなるべくわかりやすく解説していきます。言うまでもなく、こちらで書く内容は個人的な見解に基づくものです。よろしくお願いします。

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