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日銀のイールドカーブ・コントロールとは何だったのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 日銀は2016年から、イールドカーブ・コントロール(YCC)という金融政策をとってきた。簡単にいえば、本来は金融市場によって形成される長期金利を日銀がコントロールしようというものだ

 日本国債と日銀の金融政策やオペレーションの関係性は深い。債券市場の動向を読むうえで、日銀の動きを常にチェックしておく必要があることは確かだ。ただし、日銀の金融政策やオペレーションは、本来であれば自在に長期金利をコントロールしようというものではない。あくまで日銀が行ってきたのは、短期金利に干渉することによって市場で形成される長期金利にも働きかけ、金融市場を通じて経済・物価動向に影響を与えようというものである。

 日銀など中央銀行が金融政策を進める際の政策金利が短期金利となっているのは、短期金融市場での日銀の影響力が大きいことによる。短期金融市場に参加しているのは銀行などに限られるため、資金の過不足を日銀がオペレーションで調節するとともに、政策金利を目標値に誘導するということがある程度可能だ。以前の日銀のサイトには、次のように記されていた。

 「中央銀行が誘導するのに適しているのは、ごく短期の金利なのです。期間が長い金利の形成は、なるべく市場メカニズムに委ねることが望ましいのです。」

 現在の日銀のサイトでは、この文章はなくなっているようだ。日銀の政策と文面に齟齬が生じたためと予想される。

 イールドカーブ・コントロールのきっかけとなったのは、2012年の衆院選に端を発するアベノミクスだ。アベノミクスの矢のひとつとして、安倍政権は、人員を含めたリフレ政策を日銀に押しつけた。これによって正統とはいいにくい金融政策ができあがった。日銀は、リフレ政策を早期に終わらせるべく、2年という短期決戦に挑んだが、それは叶わなかった。

 そもそもリフレ政策に正当性がなかったからだ。しかし、一度進めた政策を変えることは簡単ではなかった。そうして始まったのが2016年のマイナス金利政策であり、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)であった。

 問題が表面化するのは2020年以降。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大やロシアによるウクライナ侵攻によって、世界的に物価情勢が一転したことによる。欧米の中央銀行は物価の急激な上昇を受けて、金融引き締めに転じ、積極的な利上げを続けた。正統で、伝統的な金融政策を実施したわけである。

 対して日銀は、政策の反転は頑として認めなかった。それは金融政策の公表文にもあらわれている。2023年7月28日の金融政策決定会合の「当面の金融政策運営について」には、「必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。」とだけあった。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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