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米国債のデフォルトは回避か

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 米国のバイデン大統領は28日、連邦政府の債務上限引き上げをめぐり、与野党が大筋合意に達したと発表した。債務上限引き上げの法案を速やかに連邦議会に提出する方針を示した。

 政府の資金繰りは6月1日にも行き詰まるとされていたが、イエレン財務長官は26日、その「Xデー」が6月5日になるという新たな試算を示した。

 米国債の発行根拠法は、合衆国憲法(第1条第8項)に基づいて連邦議会が定めた第二自由公債法となる。同法において、国債残高に制限額を課して、その範囲内であれば自由に国債を発行し資金調達できる。

 これはつまり、国債残高が定められた制限を超えてくる場合には、新法を制定し上限を引き上げる必要がある。債務上限の引き上げを可能にする新法への与野党合意がないままでは、6月5日にも連邦政府は資金が枯渇し、史上初のデフォルト(債務不履行)に陥る可能性があった。

 格付け会社フィッチ・レーティングスは24日、米国の格付けは最上位「トリプルA」に据え置いたが、米国格付けの見通しを「ネガティブ」とし今後の状況次第で格下げがあり得るとした。

 これまでも米政府の債務上限を巡っては、ぎりぎりの折衝が続けられる場面は何度もあったが、これによって米国がデフォルトとなったことはなかった。このため、もしデフォルトとなった場合には世界経済に多大な影響を与えかねず、当然、日本も巻き込まれるのではとの警戒があった。

 米国がデフォルトとなったとしても、過去にアルゼンチンやロシア、スリランカで発生したようなデフォルトとはまったく状況が異なる。米国はあくまで手続き上の問題にすぎない。民主党と共和党が、米政府の債務上限問題を使って、自らの政策を取り込ませようとしているだけである。

 まさにチキンレースの格好となり、バイデン大統領は、この合意は妥協の産物なので、希望がすべてかなった人はいない、統治する責任とはそういうものだと述べていた。

 野党・共和党のマッカーシー氏は債務上限引き上げの法案にかんして、下院議員の95%が賛成する見通しだと話した。党内の強硬派が反対し債務上限引き上げの法案が通らない可能性はゼロではないものの、仮にデフォルトとなり、一時的にせよ米国の社会経済に打撃を与えたならば、政治問題となりかねず、次回の大統領選挙にも大きな影響を与えかねないものとなり、その可能性は極めて薄いといえよう。

 議会を通るかどうかを、念の為、確認する必要はあるものの、米国がデフォルトとなる懸念は後退したとみて良いかと思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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