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欧米での長期金利の上昇リスクは他人事ではない

久保田博幸金融アナリスト
(写真:イメージマート)

 欧米の長期金利が再び上昇圧力を強めつつある。米10年債利回りは3.6%あたりが目先の節目とされていたが、あっさりと3.7%台に上昇してきた。

 パウエルFRB議長は19日のワシントンにおける講演において、「我々の目標達成のため、それほど政策金利を引き上げなくてもよいかもしれない」と発言し、金利の引き上げを停止する可能性を改めて示唆した格好となった。

 6月のFOMCでは物価のピークアウト感も出てきていることみあり、利上げを見送ると言う見方が強まりつつある。それにもかかわらず、米10年債利回りが再び上昇してきたのはどうしてであろうか。

 米国では米債務上限問題を巡り、与野党での駆け引きが続き、初のデフォルトかといった懸念も出ている。こちらはあくまで政治上の駆け引きであることで、デフォルトはさすがに回避されるであろうとの見方が強い。それよりも本来注意すべきは、米国の債務上限を引き上げる必要があるという事実そのものにある。

 ここにきて欧州の国債利回りも再び上昇しつつあるが、こちらの要因として、欧州各国の財政悪化リスクへの懸念が強まっていることが指摘されている。

 ECBによる利上げが進み利払い負担が拡大し、さらにエネルギーなど物価高に対する補助金で財政赤字が拡大しつつあるためである。

 英国の10年債利回りは22日に4%台に上昇してきていた。英政府統計局によると3月の公的部門による借り入れが215億ポンドと3月としては遡ることができる1993年以降、過去2番目の大きさとなっていた。

 欧州でもエネルギーや食品を中心にインフレが加速した、各国政府は物価高対策として巨額の補助金を投入した。ここに中央銀行の利上げによる利払い費用の増加により、欧米の財政赤字が拡大し、それによってあらためて長期金利に上昇圧力が強まっているとの見方が出てきたのである

 むろん、欧米の長期金利上昇の背景には、FRBやECBが金融引き締め策を予想以上に長期化させるのではとの見方もあろう。しかし、財政への懸念もそこに徐々に含まれてきている可能性も否定はできない。

 今後さらに財政悪化による欧米の長期金利の上昇が意識されると、日本の長期金利にも影響を与えかねない。

 日本では日銀が大量に国債を買い入れるとともに、長期金利コントロールを行っているために、むしろ安全資産として(?)、資金が日本国債に流れるとの穿った見方も出てくるかもしれない。

 しかし、より現実を見据えると、物価高なのに金融緩和を続け、日銀が大量の国債を買い入れ財政ファイナンスのような状況にあり、放漫財政を続けている日本の財政の脆弱性の方がより意識されかねない。リスクはむしろ日本にあり、との認識が強まることも十分にありうるのである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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