キャッシュレス決済の普及活動の問題点、給与デジタル払い制度は本当に必要か
2023年用年賀はがきの販売が11月1日に全国一斉に始まったが、そのタイミングで郵便局でクレジットカードなどのキャッシュレス決済ができないトラブルが一時発生した。
日本郵便によると午前10時半ごろにトラブルが発生し、午後2時半までに復旧したが、これは全国規模であった。ファーストリテイリング傘下のユニクロやGU、良品計画が運営する無印良品でも一部店舗で一時、同様のトラブルがあったようである。
郵便局では2020年2月からキャッシュレス決済を導入しており、それが使えずに影響を受けた人もいると思う、しかし、銀行のネットワークの障害などに比べれば影響は限定的であったとみられる。
郵便局でたとえば年賀はがきを買う際にクレジットカードなども使えるのは便利だが、それによってキャッシュレス決済の普及が進むとも考えづらい。
ましてや「給与デジタル払い」制度も同様であろう。
厚生労働省は10月26日に開催した第181回労働政策審議会労働条件分科会において、給与を電子マネーで支払う、いわゆる「給与デジタル払い」制度導入を視野に入れた労働基準法の省令改正案を了承した。公布日は今年11月を予定しており、施行は2023年4月1日からとなる。
資金移動業者の倒産リスクなどもあるため、新たに厚生労働省が設けたルールで基準を満たす事業者のみに「給与デジタル払い」の許可を出す「2階建て方式」を採用するそうである。しかし、問題はそこだけではない。
「給与デジタル払い」で利用する決済事業者のアカウントの残高上限は「100万円」までとされる。もし100万円を置いたままにすると次回の給与からの決済事業者のアカウントへの振り込みはできなくなる。
決済事業者のアカウントを使った利用金額は数万円程度ではなかろうか。100万円をすぐに銀行預金に移せば良いではないかとなれば、決済事業者のアカウントに振り込む意味がない。
さらに雇用者側としては、複数の銀行口座に振り分けすることもケースとしては多くはないのではなかろうか。たとえ手数料は低く抑えることができようが、あらたに決済事業者のアカウントに振り込むとなれば事務負担は当然増えることとなる。
この「給与デジタル払い」でいったい国は何をしたいのかが、みえてこない。これでキャッシュレス決済が拡大するとも思えない。国内に銀行口座を持たない海外からの労働者などには適しているとの見方もあるが、日本国内ではそれほど大きなニーズになるとは考えづらいのである。