経済危機に直面するスリランカで大統領と首相が辞意を表明。物価の高騰、破産宣告などで国民は怒り心頭
経済危機に直面するスリランカのラージャパクサ大統領は、13日に辞任する意向を固めた。すでにウィクラマシンハ氏も9日に辞意を表明していた。
ラージャパクサ氏は政権延命のため、5月に野党からウィクラマシンハ氏を首相に起用した。挙国一致体制を強調し5年間の大統領任期を全うする意向を示してきたが、公邸の占拠などの混乱を踏まえて続投を断念した。
2005年の大統領選に出馬し、対立候補のラニル・ウィクラマシンハを僅差で破り、第6代大統領に就任したのが、マヒンダ・ラージャパクサであった。今回、辞意を表明したラジャパクサ大統領はその弟のゴーターバヤ・ラージャパクサである。
兄のマヒンダ・ラージャパクサ元大統領は、2006年より再燃したスリランカ内戦において、中華人民共和国とパキスタンから大々的な軍事支援を受けたこともあり、2009年にはスリランカ全土の実効支配を回復。この際に弟のゴーターバヤ・ラージャパクサは国防次官であった。兄弟で2009年の内戦終結に関わり一定の支持を集めていた一方で、一族での政治の私物化が批判されていた。
兄のマヒンダ・ラージャパクサ政権時代に進められたロータス・タワー、国際空港、ハンバントタ港、高速道路の建設といった大規模プロジェクトについても、汚職疑惑が取り沙汰された。また、インフラ整備の資金は中国などからの有償資金援助で賄われ、スリランカの債務状態が急激に悪化した。
兄のマヒンダ・ラージャパクサ大統領は2015年1月8日の投開票においてシリセーナに敗れた。敗北の理由としては、親族を要職につかせるなど縁故主義的で独裁的な体制が、有権者からの反発を招いたとされている。
しかし、マヒンダ・ラージャパクサ氏は2018年10月26日に、シリセーナ政権における大統領と首相のウィクラマシンハの対立を受ける形で突然の首相再任を果たした。ウィクラマシンハ側がこの首相交代を認めず、首相が二人という異常事態が発生していた。最終的には、ラージャパクサは首相を辞任、ウィクラマシンハがシリセーナ大統領より再び首相に任命されたことで異常事態は解消した。
2019年の大統領選においては、マヒンダ・ラージャパクサは自身が主導するスリランカ人民戦線(SLPP)の大統領候補として、弟のゴーターバヤ・ラージャパクサを擁立。前年の政変で評価を落とし、政権運営が行き詰まりをみせていたことで、シリセーナは大統領選を辞退。11月17日の投票でゴーターバヤは勝利を収めた。マヒンダ・ラージャパクサ(兄)は、第8代大統領となったゴーターバヤ・ラージャパクサ(弟)により、11月20日に改めて新首相に指名された。
中国から巨額の借り入れを行い危機の原因をつくったとされるマヒンダ・ラージャパクサ氏(兄)は5月に反政府デモが続く中、首相を辞任した。その後任となったのがウィクラマシンハ氏であった。
スリランカは新型コロナウイルスで経済の柱である観光業が低迷した。近年は外貨準備高が急減。ロシアのウクライナ侵攻に伴う国際商品市況の高騰なども追い打ちとなり、ガソリンなど輸入品の不足とインフレが国民生活を直撃。5月にはアラブ首長国連邦の業者を介してシベリア産原油約9万トンを購入したのを最後に、輸入に必要なドルが尽きていた。ロシアによるウクライナ侵攻開始前、ロシアとウクライナはいずれも、スリランカを訪れる観光客の数で上位の国だったとされる。
スリランカでは輸入に充てる外貨が尽きたことから、数か月にわたり停電や物価高騰、食料やガソリンの深刻な不足が続いている。通勤・通学で消費されるバスや鉄道の燃料を節約するため、全土で休校措置を取ったり、公務員に在宅勤務を求めたりしている。
今月5日らはウィクラマシンハ首相が議会で演説し、国の「破産」を宣言。 スリランカ中央銀行は7日、記録的高水準の国内インフレに対処し、潜在需要の高まりを抑制するため、主要政策金利を1%引き上げた。常設貸出金利を15.50%、常設預金金利を14.50%とした。過去21年間で最も高い水準となる。スリランカ中央銀行のウィーラシンハ総裁は、インフレ率は最大70%まで上昇する可能性があるとしている。
ウィクラマシンハ首相は議会で、金融支援獲得に向けた国際通貨基金(IMF)との交渉について説明。地元紙デーリー・ミラー(電子版)によると、「過去には発展途上国として(IMFと)協議してきたが、今は破産国家として協議しているため、交渉はより困難で複雑になる」と述べた(6日付時事通信)。
政権運営に対する国民の不満が高まり、足元で抗議活動が激化していた。9日には政権退陣を求めるデモ隊が同日に、最大都市コロンボにある大統領公邸を占拠する事態となった。
スリランカは人口約2200万人の小国だが、中東・アフリカと東アジアを結ぶシーレーン(海上交通路)の要衝にあたる。経済危機で混乱が続くなか、周辺地域で影響力を強めようとしてきた中国やインドなどの対応が注目されている(9日付日本経済新聞)。