Yahoo!ニュース

石油ショック再来はあるのか、原油は高値波乱、石炭は高値更新、世界食料価格は過去最高を記録、そして円安

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 代表的な原油先物であるニューヨーク商業取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)は、3月1日に100ドルを突破し、3月8日に一時129.44ドルを付けた。これが直近の高値となり、その後は主に100ドル近辺にて大きな値動きとなっている。

 ロシアによるウクライナ侵攻によって原油などのエネルギー価格が急騰した。ロシアが天然ガスや石油の供給国であったことで、それによる欧州への供給への不安が強まった。

 原油価格の上昇に対してOPECなどでの増産の動きは限られた。このため米国を中心に日本や欧米諸国は備蓄していた原油の放出を決めた。3月31日に米国のバイデン大統領は、今後6か月間にわたって最大1億8000万バレルを放出すると発表。戦略石油備蓄を始めた1974年以降で、最大規模の放出となる。

 しかし、これで原油価格の上昇は抑えられるかは疑問となる。それでなくても経済の正常化の過程でエネルギー需要が増加していた最中での、ロシアによるウクライナ侵攻であった。これにより需要の急速な高まりに、供給減という最悪の状況が生まれた。

 ただし、中国での新型コロナウイルスの感染拡大などによって原油需要がいったん後退する可能性もある。米国の大規模な備蓄放出も一時的に供給を緩和する。こういった要因によって、原油先物が高値波乱となっている。これに対し、米国の石炭の価格が上昇してきていることも見逃せない。

 米国の石炭価格が13年ぶりに1トン当たり100ドルを突破した。4月4日発表の米政府のデータによると、中央アパラチア産石炭価格は、2008年後半以来の高値水準である1トン106.15ドルとなった(5日付ブルームバーグ)。

 この背景には、ロシアのウクライナ侵攻と世界的なエネルギー危機で化石燃料への需要が高まっていることがある。そしてこの石炭価格の上昇により、米消費者の電気代負担が増加し、さらなる物価の上昇を招きかねない。

 原油の備蓄放出で一時的に供給を増加させても一時しのぎでしかなくなる。原油以外の石炭や天然ガスなどについては需給を改善させることは難しい。

 さらに国連食糧農業機関(FAO)が4月8日発表した3月の世界食料価格指数は159.3となり、前月比17.9ポイントの大幅上昇となった。前月に続いて過去最高を更新した。

 ロシアのウクライナ侵攻を受け、小麦など両国からの穀物供給への不安が強まり、価格が高騰した。ロシアとウクライナは小麦とトウモロコシで世界有数の生産・輸出国。両国合計で、世界の小麦輸出の3割、トウモロコシの2割を占める(8日付時事通信)。

 現在の米国の物価上昇率は1970年代の「石油ショック」以来となる40年ぶりの高水準となっている。

 これに対して、パウエルFRB議長は、米国が1970年代と比べ「石油価格のショックを乗り切る上で、より良い状況にある」と、経済構造が違う点を強調。原油高を克服できると述べた。

 米国はシェールオイル開発で世界最大の産油国となり、天然ガスを含むエネルギーの純輸出国に替わっていることも背景にあろう。パウエルFRB議長は原油高を克服できると述べるとともに、物価安定を最優先にして積極的な利上げを進める考えを示した(10日付時事通信)。

 これに対して日本はどうであろう。原油などエネルギー価格の上昇は、そのほとんどを輸入に頼る日本にとっても大きな問題となる。福島の原発事故によって日本の電力は火力発電が中心となっている。エネルギー価格の高騰は日本の電力料金やガソリン価格などに直接影響を与える。

 さらに穀物を含めた原材料価格の上昇受けた価格転嫁、つまり値上げの動きも拡がっている。日本には安い米があるではないかと言われるが、そう簡単に食生活は変えられない。

 そしてパウエルFRB議長が、物価安定を最優先にして積極的な利上げを進める考えを示したのに対して、日銀は積極的に金融緩和を維持する姿勢を示し、物価上昇を抑える様子はまるでない。

 このため、日米の中央銀行の金融政策の方向性の違いによって円安が進行している。ドル円は一時125円台をつけたあと、いったん押し戻された。しかし、米長期金利が再び上昇圧力を強めると円安が加速する可能性もある。

 現在は再び124円台を付けて125円を伺う動きとなっている。8日に米長期金利は一時2.73%と2019年3月以来、3年ぶりの水準まで上昇した。

 日本の消費者物価指数は2月が前年比0.6%増にすきないが、4月以降は2%を超えてくることが予想されている。それに対して企業物価指数はまもなく10%を超えてくることが予想されている。

 円安によりエネルギー資源の大半を輸入に頼る日本にとっては今後、さらなる物価上昇圧力が加わってくることも予想される。石油ショックは過去のことだと、日本では果たして言っていられるのであろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

牛さん熊さんの本日の債券

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月20回程度(不定期)

「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、当日の債券市場を中心とした金融市場の動きを牛さんと熊さんの会話形式にてお伝えします。昼には金融に絡んだコラムも配信します。国債を中心とした債券のこと、日銀の動きなど、市場関係者のみならず、個人投資家の方、金融に関心ある一般の方からも、さらっと読めてしっかりわかるとの評判をいただいております。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

久保田博幸の最近の記事