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日銀は追い込まれる前に正常化の道筋を示すべき

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 日銀は今年の夏あたりから正常化に向けて舵を切る可能性があると個人的にみていた。ただし、それはあくまで正常化にむけたロードマップが作成できる段階となる程度とみていた。実際にマイナス金利政策やイールドカーブコントロール、オーバーシュート・コミットメントなどの解除は時間を掛けて行うのではと予想していた。

 しかし、事態はロシアによるウクライナ侵攻で一変した。いったん思わぬ方向に向かうとそれが加速してしまうことがあるが、今回はまさにその典型事例といえる。

 日銀が物価目標としている消費者物価指数(除く生鮮)の2%達成は、たとえば原油価格が100ドルを超すようなことがないと難しいとされていた。その原油先物価格はあっさりと100ドルを超えてきた。

 4月の消費者物価指数からは携帯電話料金の引き下げによる影響がかなり削減される。1.5%程度あり、そのうち4月は1.1%あたりとされ、その分が上乗せされる。

 18日には2月の消費者物価指数が発表される。もし2月の東京都区部と同様となれば前年同月比プラス0.5%あたりとなる。

 ここに1.1%を上乗せすれば1.6%近辺となり、まだ2%に距離がある。

 しかし、ここにきての原油や天然ガス、石炭などのエネルギー価格の急騰による影響を加算すれば、予想外の物価上昇となりうる。原材料価格の上昇もあって食料品などの値上げも無視できない。

 SMBC日興証券は、燃料油価格の激変緩和対策の継続がなければ、消費者物価(生鮮食品を除く)は、携帯電話通信料の値下げ効果が剥落する4月に前年比2.4%程度に高まるとの見方を示した。

 このように4月の2%超えというのはむしろ現実味を帯びつつある。それですぐに日銀が正常化に向けて動くということは考えづらい。黒田総裁も賃金等の上昇の必要性を強調している。

 それでも、日銀が10日に発表した2月の国内企業物価指数は前年同月比9.3%上昇と、過去最大の伸びとなった。企業経営者にとってはすでに物価上昇をかなり意識せざるを得ないはずである。

 価格転嫁も以前に比べると進んでいるというか、進めざるを得ないことで、食料品などを中心に値上げが進むことも予想される。ロシアによるウクライナ侵攻によって、小麦やそば粉などの値上げが予想され、レアメタルなどへの影響もあり、今後、思わぬ値上げが起きることも予想される。

 これらによって消費者の物価感に変化が生じる可能性がある。さらに日銀が正常化に向けて舵が切れないとみなされれば、日米の金融政策の方向性の違いなどから円安圧力が生じやすくなる。その影響はすでに出ており、ドル円は118円台に上昇している。

 急激な円安を抑える上でも、日銀は正常化に向けたスタンスとなる可能性を示唆することも今後必要になってこよう。

 マイナス金利政策もイールドカーブコントロールも、あくまで非常時対応である。物価そのものが上昇してきた際には、それがエネルギー価格の上昇の影響が大きいとはいえ、通貨への影響等も考慮した上で、正常に戻す必要性を訴えることも必要となるのではなかろうか。

 夏の参院選にむけて物価上昇がテーマのひとつとなる可能性もある。追い込まれる前に手を打つことも重要であり、低金利に慣れきってしまっていることでの金利の正常化による影響についても考慮して、慎重ながらも徐々に進めることも重要であると思う。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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