Yahoo!ニュース

ガソリン価格の上昇を政府の補助金で抑制することへの疑問点

久保田博幸金融アナリスト
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

 萩生田光一経済産業相は16日、「ガソリンなどの価格が一定の水準を超えた場合に元売り事業者に価格抑制の原資を支給する時限措置を考えている」と表明した。ガソリン価格が全国平均で1リットルあたり170円を超えた際に補助金を出し、同5円を上限に支給する案がある(16日付日本経済新聞)。

 石炭や天然ガスなどのエネルギー価格が上昇し、それが原油価格にも波及してきている。エネルギー価格の上昇にはいろいろな要因が組み合わさっているものの、経済の正常化による影響が大きい。ここにきて原油先物価格はいったんピークアウト感が出ているものの、今後さらに原油価格が上昇するという懸念も強いことも確かである。

 さらに日本では円安による影響も受けやすい。17日にドル円は一時115円に接近してきた。円安によって原油などの輸入価格が上昇する懸念がある。

 ただし、補助金で上昇を抑制する対策には疑問が残る。

 政府は直接、OPECプラスなどに掛け合って原油価格の上昇抑制を図ることはしなかった。その代わり、原油価格は市場動向に任せるものの、ガソリン価格に170円という防衛ラインを設けた。そこを上回った際に170円を超えた部分を石油の元売り各社に補助金を出して、価格の上昇を抑制しようとするものである。

 原油価格の上昇により影響を受けるのは個人も企業も同様である。できれば石油関連商品の価格の急騰は避けたいことは確かである。景気回復の足かせになる可能性もある。

 しかし、原油価格上昇抑制のため、元売り事業者に補助金を出すというのは世界的にみても極めて異例となる。元売りで価格を抑えても、小売りとなるガソリンスタンドなどでの価格設定に強制力はないし、強制すれば独禁法にも抵触しかねない。

 補助金によって一時的に小売価格を抑えることはできたとしても、原油価格や円安の動向次第では、ガソリン価格が5円を超す上昇となる可能性もある。それにも対応するとなれば、バラマキ政策にもなりかねない。

 為替が大きく動くと為替介入という手段があるが、それが効果的とは思えない。日銀は長期金利をコントロールしているが、その効果と副作用を考慮するとそれが適切な手段とも思えない。政府などが価格統制に乗り出すと市場の価格形成をゆがめるなど副反応も当然出てこよう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

牛さん熊さんの本日の債券

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月20回程度(不定期)

「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、当日の債券市場を中心とした金融市場の動きを牛さんと熊さんの会話形式にてお伝えします。昼には金融に絡んだコラムも配信します。国債を中心とした債券のこと、日銀の動きなど、市場関係者のみならず、個人投資家の方、金融に関心ある一般の方からも、さらっと読めてしっかりわかるとの評判をいただいております。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

久保田博幸の最近の記事