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大手証券会社に「相場操縦」疑惑で強制捜査、個人投資家には“氷山の一角”とみえるワケ

久保田博幸金融アナリスト
(写真:西村尚己/アフロ)

 市場において相場を意識的、人為的に変動させ、その相場をあたかも自然の需給によって形成されたものであるかのように装い、他人を誤認させ、その相場の変動を利用して自己の利益を図ろうとする行為は「相場操縦取引」と呼ばれ、日本では金融商品取引法で禁止されている。

 大手証券会社の社員が株価を操作したとされる疑惑が2日浮上したと日経新聞が報じた。

 証券取引等監視委員会は立会時間外での売買を巡り、SMBC日興証券社内で市場の公正を害する取引が繰り返されたとみて強制調査、社員らは「不正取引の認識はなかった」と説明している(3日付日本経済新聞)。

 今回、相場操縦が疑われたのは「ブロックオファー」と呼ばれる取引である。上場企業の大株主やオイルマネーなどの大株主が、その保有株を手放す際などに証券会社が株式を引き取り、時間外の相対取引を通じて特定の投資家に転売する取引となる。

 株価への影響を最小限に抑えられる利点があり、証券会社を通じて日常的に行われている。似たような取引である「立会外分売」との違いは、取引所外であり、特定の顧客にしか知らされないことなどがある。売却先の投資家は証券会社が募り、買い取り額と売却額の差額が証券会社の利益になる。

 買い取り額と投資家への売却額は一般的に同種の取引を持ち掛けられた日の終値を基準に算定することが多い。ブロックオファーの取引は公開されていないものの、市場の噂といったかたちで大口売却の情報が広がり、その結果、ブロックオファーの対象銘柄の株価が下落する恐れがある。

 今回、SMBC日興の社員らは相対で決まるブロックオファーの買い取り額が下がらないように、市場で対象銘柄の買い支えを図ったのではないかとされている。

 今年1月に米国で、SNS(交流サイト)「レディット」のチャットルーム「WallStreetBets」などで個人投資家に米ビデオゲーム販売、ゲームストップ株の購入を促す呼び掛けが広がり、同株が急騰したことが問題視されたことがある。

 こういったこともあり、株式市場における相場操縦は日常的に行われていると思う人も多いようだが、仕手戦など仕掛けられていた時代とは異なり、現在はかなり規制強化されている。

 金商法では、市場の公平性を阻害する最も重大な違反行為と規定されている。法定刑は10年以下の懲役もしくは1千万円以下の罰金または併科。法人を罰する両罰規定もある。

 それでも2018年に証券取引等監視委員会が、日本国債の先物取引で相場操縦をしていたとして、三菱UFJモルガン・スタンレー証券に対し2億1837万円の課徴金納付を命じるよう金融庁に勧告した事例などもあった。この際には実際には成約させる意思がないにもかかわらず大量の売りと買いの注文を出す「見せ玉」と呼ぶ手口で不正に価格を操作した疑いが掛かっていた。

 私の債券ディーラー時代もこういった見せ玉は日常茶飯事であった。その後、規制は強化されているものの、見せ玉を含めた相場操縦と疑わしき行為は現在も行われている可能性は否定できない。このため、個人投資家にとって今回の相場操縦の疑いも氷山の一角とみられているのかもしれない。

 相場の世界にあっては勝つか負けるかの世界でもあるため、価格そのものが変な動きをするだけで疑惑も出てしまうこともあろう。思惑的な動きであったものが多いとは思うが、今回のように作為的な動きが事実であるならば当然ながら罰せられるものとなろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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