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日本の国債市場が抱える大きなリスク

久保田博幸金融アナリスト
(写真:cap10hk/イメージマート)

 6月1日に10年国債の新発債(カレント物)が出合わないという極めて異例の事態が発生した。しかし、日本の債券市場の商いが減少しているのは、今に始まったことではない。それでも、この動かない日本の債券市場そのものは大きなリスクをはらんでいる。

 金融商品の値動きが止まってしまうと、それによって大きな影響を受けやすい取引がある。派生商品のひとつ、オプション取引である。値動きが荒いことをボラが高いといった表現をするが、そのボラとは魚の名前ではない。ボラティリティのことである。ボラティリティとは、一般的に価格変動の度合いを示す言葉で、オプション取引が開始されて市場参加者が良く使うようになった。

 オプション取引とはこのボラティリティを取引するようなものであり、価格そのものが動かなくなると取引のしようがなくなる。現実に大阪取引所に上場されている先物オプション取引の売買高は大きく落ち込んでしまい、惨憺たる状況となっている。

 9月から権利行使価格の刻みを0.50円から0.25円に変更され、取引できる銘柄が増加されるが、ボラそのものが回復しないと取引高は簡単には増えないであろう。

 債券先物はHFTなどの取引も入っているようで、なんとか商いは出来ているが、値幅は日中で5銭しかないなど、こちらも参加者の厚みはなくなっている。

 これがいったい何をもたらすのか。日本の債券市場は国債の残高規模で言えば、米国債に次ぐ市場である。市場参加者はその値動きを予測しながら取引をする。これで経験を積むことになる。それにより相場感覚を養い、リスクに応じたリターンを得ようとする。

 価格変動の怖さは、ビットコインなどに投資した人たちは身にしみて感じたと思う。昨年4月の原油先物の急落、株式市場の乱高下などで価格変動時にいかに損失を減らし、むしろそこで利益が得られるか。これは価格変動の経験を積んで多少なり痛い目をみないと得られない。シミュレーションなどでは得られないものでもある。

 現在の円債市場は、この価格変動の経験が得られなくなってしまっている。相場が動かないと金融機関はなかなか儲けられず、市場から参加者も減っていこう。残った参加者も金利はほとんど付かない状態しか経験がない。

 それはつまり、もし日本国債が急に動き始めたら、第一線にいる人たちにとっては未知の世界となってしまう。金利が動いた時代を知っている我々の年代はすでに一線は退いてしまっている人が多い。

 日銀は早期に長期金利に打ち込んだ楔を解き放ち、経済や物価、国債の需給、海外金利の動向に応じて動く市場に戻さなければならない。そうでなければ、いざというときにオプション市場や現物債市場が機能しなくなってしまうというリスクを抱えたままになりかねない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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