米雇用統計が予想を下回っても株式市場の悪材料とはならなかったのは、ショートポジションの存在が影響か
米労働省が5月7日に発表した4月の米雇用統計では、非農業雇用者数が前月比26.6万人増となり、市場予想の約100万人増を大幅に下回った。3月の雇用者数は77万人増と、当初の91.6万人増から下方修正された。
予想を大きく下回った理由として、失業手当の拡充が労働力の供給を制限しているとの見方があった。手厚い失業手当に加え、親が育児のために在宅を強いられていることやコロナ禍をきっかけとした退職なども挙げられていた。
また、季節調整前の雇用者数をみると、3月の117.6万人の増加に続き、4月も108.9万人の増加となった。ちょうど1年前のコロナ・ショックを受けて、雇用統計が悪化したことを受け、今回は季節調整がうまくできていなかったのではとの見方もあった。
ほかの米国の経済指標を見る限り、米国の景気が回復していることがうかがえる。景気悪化による雇用者数の伸びの鈍化というよりも、政府の手厚い失業手当を意識した退職や、季節調整がうまくいかなかったとなれば、市場にとって今回の雇用統計の数字はそれほどの悪材料とはなりえない。
実際に7日の米国株式市場は上昇した。この雇用統計を受けて、FRBの金融緩和の長期化が意識されたとの見方もあった。しかし、雇用統計が予想以上となっての米長期金利の上昇を見越して米株は下落すると見込んだポジションのショートカバーが入ったことも考えられる。
10日の米国株式市場はハイテク株を主体に下落した。これは米雇用統計が予想を下回ったためにあらためて売られたというよりも、景気回復基調は変わらず、それよりも金属や木材価格の上昇などによる物価上昇リスクとそれに伴う米長期金利の上昇観測が背景にあった。
10日に欧米の期待インフレ率が上昇していた。これは米国の主要パイプラインがサイバー攻撃を受けて操業停止となったことで、ガソリン価格の上昇を織り込んだとの見方もあったが、きっかけ次第では物価は上がるとみている参加者も多いということを示した。
10日に中国市場で鉄鉱石と鉄の先物価格が過去最高値を付け、銅も需要が改善するとの見方から過去最高値を付けていた。ここにきて木材価格も高騰している。
物価そのものは今後さらに上昇してくる可能性が高く、今回の欧米での期待インフレ率の上昇は一過性のものとは言い切れない。
現実に物価とともに米長期金利が再び上昇基調となれば、ややバブルの様相を強めつつある米国株式市場などが波乱含みの様相となることも予想され、注意が必要となろう。