スマートフォンの決済アプリに給与が直接入金される「デジタル払い」の解禁に向け、厚生労働省は4月19日、制度案の骨子をまとめた。アプリ運営会社が経営破綻した場合は保証機関などが支払いを肩代わりし、数日以内に受け取れる仕組みを求めた(4月19日付時事通信)。

 政府は、給与支払いのデジタル化を解禁する方針を示しているが、これは行政サービスや社会全体のデジタル化の推進が挙げられる。給与は生活資金の基盤となるため、給与払いのデジタル化を解禁することで、社会のキャッシュレス化を加速させるとともに、国全体のデジタル化を促したい狙いがあるという(2月10日付日経ビジネス)。

 労働基準法では、給与は現金で全額払うのが原則とされ、銀行などの口座に振り込むのは労働者の同意を得た場合の例外とされる。今回のデジタル払いについても例外となろうが、銀行口座については金融機関が破綻した際には預金保険制度が適用され、預金者の口座の元本1000万円が保護される。これに対して、デジタル払いの場合は資金移動業者が経営破綻したときの対応が求められる。

 それだけではない。もし銀行口座とデジタル給与払いの二択となった場合には、デジタル給与払いへのニーズが果たしてどれだけあろうか。むろん、一部を「デジタル払い」にというのであれば、ニーズはあろうが、その会社の人事部の負担も大きくなりかねない。  

 政府はこれによってキャッシュレス化を加速させたいとしているが、銀行口座への振り込みそのものもキャッシュレス化の一環であり、そこからクレジットカードや各種公共料金、携帯電話料金の引き落としも行われ、こちらもキャッシュレスの括りとなるはず。何もスマホ決済だけがキャッシュレス化ではなく、デジタル払いとせずともすでにキャッシュレスになっている。

 しかも、給与所得者にとっては給与は生活資金の基盤であり、住宅ローンの引き落としも含めた生活費の引き落としのため、銀行口座に一定金額を置いておく必要がある。それであれば、現行の銀行口座への振り込みが最も便利なはずである。

 日経ビジネスの記事では、銀行口座開設のハードルが高い外国人労働者の報酬受け取り手段として利用されるとか、日雇い労働者やアルバイトなどの非正規労働者の利便性が向上するとの指摘があった。その必要性はないとは言えないまでも、そのために制度まで変えて、デジタル給与払いを進める必要性があるのであろうか。

 日本では現金への信用度の高さとともに、使い勝手の良さで現金の利用率が高い面もある。それだけでなく地震など災害時での現金の利用も意識されている。災害時などでは銀行は通帳なしでも本人確認のみで一定金額の現金の引き出しを認めるなどの対応策を実施している。このようなことが資金移動業者には果たして可能となるのであろうか。