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FRBはテーパリングを準備か、時期尚早との見方も

久保田博幸金融アナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 FRBはテーパリングを準備か、時期尚早との見方も」のパウエル議長は14日の講演で、少なくとも2023年末までゼロ金利を続けるとの方針をめぐり「我々は時間枠ではなく、経済が改善するかどうかを重視している」と強調した(15日付日経新聞)。

 これは2023年という時間枠に縛られることなく、経済の改善状況次第では動くときには動くという姿勢を示したものとみられる。フォワードルッキングを重視するあまり、タイミングが外れるリスクも意識したものともいえよう。

 記事では早期の政策変更を否定しつつ、経済情勢次第で変更時期が変わりうる可能性を示唆したと解説があったが、年内の利上げは「極めて可能性が低い」との発言を受けてのものであろう。たしかに年内の利上げは現状は予定はしていないかもしれないが、変更時期についてはフレキシブルに見ているといえる。

 FRBは3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で少なくとも2023年末まで現在のゼロ金利を維持する見通しをまとめた。市場では時期が前倒しされるとの観測が広がっている。パウエル氏はFOMC参加者の現時点での予測だとしたうえで「市場は経済見通しを集約した点図表をあまりに重視する傾向がある」と指摘した(15日付日経新聞)。

 2023年末まで現在のゼロ金利を維持するというのは確定事項でもなんでもない。現状のFOMCメンバーの見通しの中央値がそこにあるだけである。しかし、市場やメディアはそれを重視するあまり、2023年まで利上げはしないと読んでしまう傾向がある。

 むろん、緩和効果を意識している際には、FRBもそのような思い込みに対して特に反論はせず、これによる「暗黙のアナウンスメント効果」を意識している可能性もある。しかし、政策の修正を意識し始めると、そのような思い込みに対して今回のような注意を与えることで、今度は修正の可能性を市場に織り込みさせることもできる。

 新型コロナウイルスのワクチン普及に伴って雇用情勢が復調に向かい、3月の物価上昇率も2%を超えた。パウエル氏は「米経済は変曲点にある」との認識を改めて示した(15日付日経新聞)。

 市場も物価上昇を織り込みはじめ、米長期金利も上昇してきた。ここにきて米長期金利の上昇にブレーキが掛かったが、2%に向けて再度上昇するとの見方も強い。

 ただし、サンフランシスコ地区連銀のデイリー総裁は15日、FRBが掲げる物価と雇用を巡る目標の達成に程遠いとの認識を示し、しかるべき時期が来たら政策正常化へのアプローチを討議するとしながらも、まだそうした時期には達していないと指摘した。ある意味、ハトとタカの比重の偏りに対するバランスを修正したような発言を行っていた。

 パウエル議長はワシントン経済クラブのインタビューで「昨年12月以降、目標に向けてさらなる著しい進展を遂げた時点で、資産買い入れを縮小する時期に到達する」と指摘。決議したわけではないとしつつも、債券購入の段階的縮小が「利上げを検討する時期よりもかなり前になる可能性が高い」と語った(14日付ロイター)。

 利上げについてはまだ時間を置く姿勢をみせた反面、テーパリング(資産購入の段階的縮小)については、準備段階に入りつつあることを示した。前回の正常化過程でも利上げの前にテーパリングを行っており、今回も正常化を意識した発言といえよう。さすがに保有資産の売却について影響が大きすぎることもあってか、バランスシートを縮小させる可能性は否定した。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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