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ネット上の資金移動を安全に行えるシステムの見直しが必要に

久保田博幸金融アナリスト
(写真:西村尚己/アフロ)

 ゆうちょ銀行では、電子決済サービスを通じておよそ6000万円の貯金が不正に引き出される被害が明らかになったそうである。

 ドコモ口座やmijicaを使った不正送金問題が明らかとなり、2017年7月から2020年9月までに、ゆうちょ銀行のコールセンターや窓口などに寄せられた不正送金の可能性がある届出を集計したところ、約380件、およそ6000万円の被害が発生している可能性があるとしている。ドコモ口座だけでなく7つの決済サービスで不正送金が発生していたとしている。

 ここにきて、不正送金問題が急速に拡大したというより、すでに発生していた不正送金がドコモ口座での発覚などをきっかけに調べ直したところ、すでに多額の不正な引き出しが確認できたということであろうか。

 政府はデジタル化を促進しようとしているが、金融にあってのデジタル化は、資金の移動に関わるものが主体になると思われる。銀行間の送金をネット上で、簡単に費用を抑えたものにしたり、買い物などでのキャッシュレスの決済を進めることになるとみられる。

 しかし、ネット上の送金に関しては重大な欠点が発覚したといえる。暗証番号などが流出している恐れがあるとともに、個人認証手続きの甘さ、他人になりすました口座の開設が可能であったことなどにも問題がある。

 個人認証については、あまり厳しくするとむしろ不便さを感じる恐れもある。それほど複雑ではないが、しっかり認証可能な仕組みが求められる。他人になりすました口座の開設についても、やはり個人認証の問題となる。

 ここまでセキュリティの甘さが露見してしまうと、ますます銀行のネットワークの外部への開放などが難しくなろう。

 キャッシュレス化促進のかけ声とともに、ネット決済方式が乱立したが、すでにセブンペイなどの問題も発生し、ドコモやゆうちょ銀行も絡むなど、大手企業ですらセキュリティに問題が出てしまったことが発覚している。

 送金については、より簡単に、より安くが求められるが、セキュリティも強固に、と付け加える必要がある。

 現金を持つときにはそれを盗まれないように自己防衛しなければならない。ネット上のキャッシュも同様に防衛する必要があるが、これは個々人が出来る問題ではない。

 デジタル通貨への関心も高いようだが、そもそもどのようなデジタル金融社会が理想とされているのか。スマホ決済でないと何か不便があるのか。お金の出入りが管理される可能性もあるデジタル通貨への移行をどれだけ国民は望んでいるのか。

 私にはどうも理想の金融のデジタル化が見えてこない。というよりも、すでにSuicaなどを使っての交通機関の利用が普通になり、クレジットカードを利用したネット通販も普通になっている。銀行の窓口に行く機会そのものが減っている。すでにデジタル化はかなり進んでいるのではなかろうか。何も他国の真似をする必要などはない。

 いますべきなのは金融でのさらなるデジタル化の促進ではなく、ネット上の資金のやり取りを安全に行うことを可能にするシステムの見直しではないかと思う。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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