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不正送金問題は何が問題なのか、今度はゆうちょ銀行のmijicaで発生

久保田博幸金融アナリスト
(写真:森田直樹/アフロ)

 ゆうちょ銀行の運営するデビットカード・プリペイドカードの「mijica」で不正送金問題が発生した。「mijica」には「おくってmijica」という機能が付いており、「mijica」のアプリから「おくってmijica」を利用すると、「mijica」を持つ相手の会員番号と金額を入力すれば即時で送金されるという。

 この機能がどうやら悪用され、何らかの手段でmijicaを使える他人の口座にアクセスし、その口座から自分の口座に不正送金したようである。

 ドコモ口座の問題でも同様の手口となってはいたが、こちらはdアカウントが容易に作れてしまったことがひとつの要因となっていた。

 しかし、今回のゆうちょ銀行の「mijica」を使った不正送金問題は、送金先となる「mijica」の口座が必要となる。もし犯人が自分の名前で口座を作っていたとなれば、犯人の特定は容易なはずである。しかし、今回は犯人は足が付く自分名義の口座を使ったとは思えない。

 そうなると他人名義での、ゆうちょ銀行での口座開設は可能なのか。それとも他人の口座を買い取るなどしていたのであろうか。こちらも問題となりうる。

 いずれにしても、簡単に送金可能なアプリなどは、いったん使用出来ないようにしておいた方が良いかもしれない。少なくとも銀行との紐付けなどは、セキュリティがしっかりしているのかを確認するまではしないほうが良いと思う。

 政府も勧めているキャッシュレス化の肝のひとつは、より安くできる送金にあるようだが、今後はセキュリティとの兼ね合いが、より重視されることになろう。決済についてもアプリ経由のリスクが認識され、やはり現金かとの認識が高まる可能性もある。

 しかし、ネット決済のアプリのセキュリティだけでなく、ネットバンキングそのものに対するセキュリティのリスク、さらには他人名義の口座が利用されている問題なども含めて、今回の不正送金問題は金融システム全体から、考える必要があるのではなかろうか。

 まったくリスクのない金融取引というのは、むしろ考えづらいかもしれない。しかし、そのリスクを最大限抑える努力をしておかないと「金融」というインフラそのものへの信用が毀損される懸念すらある。

 銀行間を繋ぐネットはあまりに旧態依然としており、使い勝手が悪すぎるという批判もある。私も以前に日銀ネットは融通が利かないとコメントしたこともある。しかしそれは裏を返せば、長い年月をかけて構築された国内の主要インフラだからでもあろう。融通は利かないが強固なインフラということでもある。これは電線だらけの景色、古い水道管の問題なども抱えながらも、安全に、いつでも電気や水が使える状態と同じようなものといえるのかもしれない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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