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菅官房長官の消費税に関する発言の意味

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 自民党総裁選の3人の候補者が、テレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」に出演し、経済政策などについて議論。その中で、菅官房長官は消費税について「将来的には引き上げざるを得ない」との認識を示した(11日のテレ東ニュース)。

 個人的には家計の負担も大きくなり、消費税はできれば上げてほしくはない。消費増税には反対との意見も当然ながら多い。また、消費税を上げてもそれがしっかり社会保障費に充てられるのか疑問を持つ人も多い。さらに消費税を上げたとしても、その分、歳出を増加させてしまうと財政再建にならないのではとの見方もあろう。

 しかし、今回の菅官房長官の消費税に関する発言は良い意味でサプライズであった。少なくとも将来的な消費増税は財政再建に向けたスタンスを示すものとなるとみているからである。ただし、11日の菅官房長官の会見では、消費税増税について「安倍晋三首相はかつて、今後10年くらいは上げる必要はないと発言した。私の考えも同じだ」と述べ、10%は当面は据え置くべきとの認識を示していた。

 2012年12月に安倍政権が再び発足した際のキーワードはアベノミクスであった。ここには、それまでの日銀の緩和の姿勢が甘いからデフレとなってしまっている、もっと大胆な金融緩和策を行えば、2%の物価目標など短期間に簡単にクリアし、その結果、景気も良くなり税収が増えるという理論が背景にあったと思われる。菅官房長官もこれを推し進めた人物と私はみていた。

 しかし、現実には2%の物価目標は達成できていない。さらにアベノミクスの大胆な金融緩和策を勧めた人たちに共通しているものとして、消費増税は断固反対というものもあった。このため、2%の物価目標が達成できなかったのは2014年4月の消費増税があったためという理論構成を行っていた。

 菅官房長官はそういった意見をくみ上げて、消費増税には反対、むしろ引き下げすら示唆する可能性もあるのではとの懸念も個人的にはあった。しかし、今回の菅官房長官の発言により、少なくともそういった考え方はなく、現政権が推し進めている政策を継続する姿勢を示した。

 消費増税を含めて財政再建は今後、大きな課題となる。すでに日本の財政をみるとワニの口の上顎は外れてしまっている。コロナ禍が収縮をみせてきた際には、財政の悪化を少しでも修復しないと日本国債への信認が毀損される懸念も出てくる。このあたりのリスクも意識した今回の菅官房長官の発言ではなかったのかと思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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