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ドイツ連邦憲法裁判所はECBの国債を買い入れる量的緩和政策は一部違憲と判断、日本はどうなのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 ドイツ連邦憲法裁判所は5日、欧州中央銀行(ECB)が各国の国債を買い入れる量的緩和政策が一部違憲との判断を示した。ドイツ政府や連邦議会の関与なしに政策が決定され、進められていることを問題視した。ECBが新たに政策の必要性などを示さない場合には、独連邦銀行(中央銀行)が実施している国債購入を3か月以内に中止する考えも示した(6日付日本経済新聞)。

 財政ファイナンスは財政規律を失わせ、ハイパーインフレなどをもたらす恐れがあるため、欧州では「欧州連合の機能に関する条約」の第123条で禁止されている。

 このため、ドイツでは経済学者や法学者らの2千人に近いグループが適法性を問い、訴えを起こしていた。連邦憲法裁判所は17年に量的緩和政策への懸念を示したものの、欧州司法裁判所に判断を求めていた。欧州司法裁判所は18年末に適法と認めたが、連邦憲法裁判所が再び判断することになっていた(6日付日本経済新聞)。

 その結果が今回のドイツ連邦憲法裁判所による一部違憲との判断となった。もし、ECBが新たに政策の必要性などを示さない場合には、ドイツ連邦銀行がECBの指示により実施している国債購入を3か月以内に中止する考えも示した。

 欧州の中央銀行であるECBの量的緩和政策では、ECBが決定した内容に則し、ECBの指示の元、各国の中央銀行がそれぞれの国債の買い入れを担っている。ドイツ連銀が勝手にドイツ国債を購入しているわけではない。

 今回の判決でECBの量的緩和政策全体がただちに中止に追い込まれることはないが、政策決定や進め方について強い警告が示されたといえると日経新聞は報じている。特に前総裁であったドラギ氏は量的緩和策の拡大を含めた積極的な金融緩和策を行ってきていたことで、この根拠やその決定方法に対して、あらためて問題が提議されることになろう。

 ただし、今回の一部違憲との判決は、ドラギ総裁時代の量的緩和政策に対するもので、ECBが新型コロナ対策として3月に決定した7500億ユーロの特別枠は対象とはなっていない。だからといってこちらは財政ファイナンスにはあたらないというわけではなく、あくまで判決の対象にはなっていないということである。

 日本でも財政法第5条によって日本銀行における国債の引受けは、原則として禁止されている。これは、中央銀行がいったん国債の引受けによって政府への資金供与を始めると、その国の政府の財政節度を失わせ、ひいては中央銀行通貨の増発に歯止めが掛からなくなり、悪性のインフレーションを引き起こすおそれがあるからと日銀のサイトでは説明されている。そうなるとその国の通貨や経済運営そのものに対する国内外からの信頼も失われてしまう。これは長い歴史から得られた貴重な経験であり、わが国だけでなく先進各国で中央銀行による国債引受けが制度的に禁止されているのもこのためとの指摘もあった。

 また戦前において日銀による国債引受などを通じ、安易に公債の発行による財政運営を許したことが戦争の遂行・拡大を支える一因となったことを反省するという趣旨に由来するものともされている。

 米国では、クドロー国家経済会議(NEC)委員長が、新型コロナウイルスのパンデミックを踏まえ、連邦政府が「戦時国債」を発行するという考えに賛成するとし、トランプ大統領にこれについて話をする意向だと述べたとも伝わっている。

 米国でも連邦準備法により連邦準備銀行は国債を市場から購入する(引受は行わない)ことが定められている。また、1951年の連邦準備制度理事会と財務省との間での合意(アコード)により、連邦準備銀行は国債の市中消化を助けるための国債買いオペ(国債の価格支持)も行わないこととなった。

 日本では、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言の延長を決めた政府に対し、与野党は対策長期化で疲弊する国民や事業者への追加支援のため、今年度第二次補正予算を編成するよう要求を強めたと報じられている。

 自民党の若手国会議員らは、新型コロナウイルスに対する経済対策として、新たに財政支出100兆円規模の今年度補正予算案の編成を政府に求める提言を発表した。新規の国債発行で財源をまかなうとしたが、これは安易に、日銀が国債を大量に購入するから問題ないとの認識が背景にあるとすれば、財政法第5条との兼ね合いはどうみるべきなのかも問われよう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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