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原油先物のマイナス化のような異常事態は今後も起こりうる、見えないリスクに備える必要も

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 20日に原油先物価格がマイナスとなり、市場関係者もかなり驚いていた。それはいくつかの特殊な事情と先物の仕組みが絡んでのものであった。だからこれは特殊な事例で、たまたまそうなっただけと片付けるわけにはいかない。

 今回の原油価格の先物がマイナスとなったのは、中心限月の移行も絡んでのことであった。これは長期国債先物取引においても、ここまで極端ではないもの極端な動きが出たことがあった。長期国債先物には現引き現渡しがあり、先物の価格もその対象となる国債の最も割安のものに連動する。それはチーペストと呼ばれ、そのチーペストの需給バランスによって、というよりその需給バランスのいびつさを狙って仕掛け的な動きが出て、限月間スプレッドが異常な動きをしたことがあった。

 原油先物については品不足によるスクイーズといった動きとは真逆のものであり、このため価格に下方圧力が加わった。通常、買われるときは仕掛け的な動きも入りやすいが、反対に売られるときは外部材料によるものが多いこともたしかである(今回の原油急落が仕掛け的な動きも入っていた可能性は皆無ではない)。

 今回の原油価格の下落の要因は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大と、それを受けてのロックダウンなどの実施による景気の低迷が背景となっていた。ここにロシアとサウジアラビア、そして米国での原油価格を巡る思惑が交錯し、供給過剰となったことも影響していた。

 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大とそれを抑止しようとの世界的動きは、これまでほとんど経験してこなかったものではないかと思われる。過去にも世界的な感染の事例はあっても、ここまでグローバル化、ネットワーク化が進んでいた社会での出来事であり、これを受けて何が起きてくるのかを想像することが難しい状況となっている。

 これまで世界経済は米国などを中心に緩やかに拡大基調となっていた。それを支えていたのがグローバル化やネットワーク化であったが、新型コロナウイルスによってそれが寸断された上、人や物の動きが止まってしまった。

 いまの経済は人が動くという前提によって成り立っている。私は10年前からテレワークをしているが、これはあくまで例外的なものであった。勉強は学校でするもの、仕事は会社でするもの、買い物や遊びに出かけることは普通のことであった。その日常が新型コロナによって奪われた。いきなり、自宅でパソコンを使って勉強したり、テレワークをするということも現実には難しい。設備そのもののハード面もそうであるが、ソフト面をどうするのかも試行錯誤となろう。

 それ以前に人の移動が当たり前となっていたものが、あたりまえでなくなったことによる経済への影響は計り知れないものがある。それが原油価格の急落というかたちであらわれたが、今後それがどのような影響をもたらすのか。

 中央銀行はこれでもかと金融緩和策というか量的緩和策を拡大しており、政府も積極的な財政政策を講じている。これは結果として政府債務をさらに悪化させることになる。いまはそんなことにかまってられない、国債はどんどん発行しろとの声も市場関係者からも聞こえる。しかし、MMTという理論が成立するのかを試すようなことはあまりにリスクが大きい。

 これから先、何が起きるのかを予想するのは難しい。もちろん新型コロナウイルスの感染拡大が止まり、特効薬が見つかるなどすれば事態は急回復し、日常が戻ることも当然ありうる。しかし、いまはそのような楽観的なシナリオは描きづらい。今後の見えないリスクに備える必要もあろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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