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新型コロナウイルス感染拡大による物価への影響

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 中国の新型コロナウイルス感染は韓国やイタリアなどにも拡大し、世界経済への影響も懸念されている。25日の東京株式市場では日経平均が一時1000円を超す下げとなった。今回はこの中国の新型コロナウイルス感染拡大が物価に対してどのような影響を与えるのかを考えてみたい。

 すでに日本国内でもマスクなどが店頭から消えており、それがネット通販などでは数倍の値段で売りに出されている。今後もサプライチェーンへの影響により、品不足などが発生してくる恐れがある。1973年のオイルショック時のように店頭からトイレットペーパーなどがなくなるような事態が発生しないとも限らない。

 だから新型コロナウイルス感染拡大は物価の上昇をもたらすのかといえば、当然ながら違うと思う。1973年のオイルショックは原油価格が急騰したことにより引き起こされたものである。OPEC加盟国中のペルシャ湾岸6か国が原油価格の21%引上げを決定し、特に中東での原油に依存していた日本での物価の急騰を招いた。

 国内における石油価格の上昇は物価に直結する。これは2008年の原油価格の急騰時に日本の消費者物価指数が一時的に2%を超えていたことなどからも明らかであろう。

 それでは今回の新型コロナウイルス感染拡大は原油価格にどのような影響を与えるのか。現在、中国は世界最大の原油輸入国となっている。この新型コロナウイルス感染拡大により、中国経済に大きな影響が出れば、原油需要が後退し、結果として原油価格を引き下げる要因ともなりかねない。これは物価の引き下げ要因となる。

 そして、サプライチェーンリスクによって、日本を含めて世界経済にも大きな影響を与える可能性がある。日本国内でも感染拡大が懸念されて、各所で自粛ムードが強まりつつある。10~12月期のGDPがマイナスとなったが、1~3月期のマイナスもこのままでは避けられない状況になりつつある。

 日本国内での個人消費も抑制される可能性があり、企業も設備投資に慎重になってくることも考えられる。政府は財政政策を講じることも考えられるが、原因となっている新型コロナウイルス感染拡大にブレーキが掛けられなければ、効果的な対策は打ちにくい。また、感染拡大に当面ブレーキが掛けられないとなれば、オリンピックなどへの影響も考慮しなければならず、これはあらたな不安要因となりかねない。

 日本だけでなく、中国との貿易が盛んな欧州などにも影響を与える可能性があり、世界経済は当初のV字回復予想からL字回復予想に、もしくは回復の兆しそのものがさらに後退してくる懸念も生じよう。

 いずれにしても新型コロナウイルス感染拡大が止まるような気配が出ない限りは、物価にとっては引き下げ要因となることが予想される。日本の消費者物価指数はかろうじて前年比でプラスを維持しているが、これがマイナスに転じるリスクもある。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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