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米中の通商交渉の行方に暗雲か、通商交渉が怪しくなると矛先をFRBに向けるトランプ大統領

久保田博幸金融アナリスト
(写真:REX/アフロ)

 トランプ米大統領は2日、ツイッターにブラジルとアルゼンチンが「甚だしい規模で自国通貨の切り下げを行ってきた。これは米国の農民にとって不利だ。従って、両国から出荷される全ての鉄鋼とアルミニウムに対する関税を直ちに復活させる」と投稿し、去年3月に中国や日本などを対象に発動した鉄鋼とアルミニウムに関税を上乗せする措置を、この2か国にも適用する方針を明らかにした。

 この件に関して米国務省、および米通商代表部(USTR)担当者からコメントは得られていないようだが、この突然のツイートを受け、2日の米国株式市場は大きく下落した。

 ブラジルのボルソナロ大統領はトランプ氏と直接協議する意向を表明するなど素早い対応も見せている。

 何故このタイミングなのか。ブルームバーグによると、「関税復活は米中の貿易摩擦において、米国に代わって中国に大豆など農産品を輸出する2国への報復に相当する。2020年に大統領選挙を控え、支持層の柱である農家を意識した格好だ」としている。

 たしかに大統領選挙を意識し、支持層の柱である農家を意識した可能性はある。ただし、今回、トランプ大統領は「金利を引き下げ、金融政策を緩和し、各国が自国通貨切り下げによって米ドルの強さを利用することができないようにするべきだ」とも主張した。つまりFRBに対して通貨安に誘導させるため利下げをしろという、いつもの主張である。

 今回のタイミングでのトランプ大統領のツイートについては、FRBへのプレッシャーも加えるあたり、何かしらうまくいっていないことがあるためではないかとの穿った見方もできる。

 いまさらブラジルとアルゼンチンの通貨安政策に文句を言ってもはじまらない。米国農家救済のためならば、米国が中国に要求している農産品の輸入拡大を目指すのが手っ取り早いはず。

 過去にも中国との貿易協議で成果を上げづらくなったトランプ政権が視線の先をFRBに向けさせたことがあった。どうも今回も同様の事例の可能性もあるのではなかろうか。それを見据えて、2日の米国株式市場が大きく下落した可能性もある。

 ・・・上記は3日の東京時間に書いたものであるが、この日、トランプ米大統領は米中貿易協議の合意について来年11月の米大統領選後まで待っても良いとの見解を示した。つまり、米中の通商交渉はやはりうまくはいっていないようである。以前から指摘されていたことではあるが、トランプ大統領がFRBに八つ当たりするのは、交渉がうまくいっていないことの現れとも言える。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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