米国の長短金利逆転の意味するところとは
14日の米国株式市場ではダウ平均が800ドル安となり今年最大の下げとなった。この要因として景気後退の前兆とされる長短金利の逆転が起こったためと報じられているが、これには少し疑問がある。
14日には米国の10年債利回りが2年債利回りを下回り、いわゆる2年債と10年債利回りの逆イールドが生じた。英国でも同様に10年債利回りが2年債利回りを下回ったことで、米国と英国の「長短金利」の逆転により、これが景気悪化の予兆として捉えられ、欧米市場ではリスク回避の動きが強まったとされる。
注意すべきは「2年債利回り」を果たして短期金利と呼んで良いものかという点にある。日本での2年債は中期債と呼ばれるものに属しており、日本の短期金利は通常、日銀の政策金利である無担保コール翌日を示す。
米国での短期の金利の代表ともいえるものは、3か月物の米財務省証券(TB)の利回りとなっている。これについては今年の3月20日に10年債利回りが3か月物の米財務省証券(TB)の利回りを下回って、すでに長短金利の逆転現象は起きていた。今回は2年債と10年債の利回りの逆転現象であり、逆イールド(イールドカーブの右肩下がり)というのであれば問題なさそうだが、長短金利の逆転現象と呼ぶのには少し違和感がある。
そもそも何故長短金利の逆転が生じたかといえば、短期金利は中央銀行の金融政策により水準が決定されるのに対し、通常、長期金利は市場で形成されているためである。
今年3月の長短金利の逆転は、3か月物TBの利回りが、FRBの政策金利に影響を受けやすいことで2.45%近辺と高止まりしていた。これに対し、英国の合意なき離脱も懸念されてのリスク回避の動き、ドイツの経済指標の悪化によるドイツなど欧州の国債利回りの低下もあって、米10年債利回りが低下して、3か月物TBの利回りを下回っていた。
長短金利の逆転は過去、2000年や2006年にも起きており、ITバブルの崩壊やサブプライムローン問題を受けてのリーマンショックなどによる景気後退の前兆とされた。長短金利が逆転したからといって絶対に景気後退が起きるわけではないものの、市場ではこれに過度に敏感となり、2年債利回りと10年債利回りの逆転現象にも大きく反応したものとみられる。
これに対しトランプ大統領など米政権幹部から、FRBに対し再び利下げ要求があったようである。しかし、今回の株価の調整はFRBの利下げが足りなかったからではない。米中の通商交渉が頓挫し、米政権が米国経済に悪影響を及ぼしかねないほぼすべての中国製品に制裁関税を広げる「第4弾」まで発表したからである。これにより米中のみならず世界経済に悪影響を及ぼし、それは欧州の経済指標などにも影響が及んでいたためといえる。
ここでFRBが緊急利下げをしても一時的な回復に過ぎなくなる。利下げカードもそれほどあるわけではない。イングランド銀行についても政策金利は0.75%であり、利下げ余地はあっても、それほど大きくはない。
そもそも市場の利下げ期待も含めての今回の米国の長期金利の低下でもあったのではないか。景気減速の予兆というより、FRBの利下げ催促の意味合いも含まれていよう。すでに米10年債利回りのマイナス化の予想も出ている。これはまだプラス金利の英国も同様か。国債利回りをマイナス化させていったいそれがどういう効果があるといえるのであろうか。