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FOMCでは10年半ぶりの利下げを決定、利下げ継続には慎重姿勢だが

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 31日のFOMCでは政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を年2.25~2.50%から年2.00~2.25%に引き下げた。米国債など保有資産を縮小する「量的引き締め」も、2か月前倒しして終了することを決定した。

 FRBによる利下げは2008年12月以来となり、10年半ぶりの利下げとなる。利下げの理由として、世界経済を巡る懸念のほか、国内インフレの低迷を理由として挙げた。しかし、世界経済を巡る懸念で大きいのは米国と中国などの貿易戦争によるものであり、トランプ政権に根本的な問題が存在する。

 そのトランプ大統領は、ツイッターで「いつものことだが、パウエル議長はわれわれを失望させた」と述べていた。失望すべきは米中の通商交渉がほとんど進展をみせていないことではなかろうか。今度は米国で閣僚級会議を行うそうだが、米国側の強気の姿勢が交渉の糸口さえ見いだせずにいる。

 トランプ大統領は失望発言の前に、市場は「長期にわたる積極的な利下げサイクル」の開始を期待していたとツイッターで批判。そうすれば「中国や欧州連合(EU)など諸外国に後れを取らずに済む」と指摘したそうであるが、まるで株式評論家のような発言である。

 利下げ競争をする必要性が現在の米国の経済実態からあるといえるのであろうか。過去最長の景気拡大局面は11年目に突入し、成長率は減速はしていても底堅く、失業率は歴史的の水準の低さを維持している。物価についてはやや低迷しているが、それでもPCEデフレーターは1%台半ばにある。

 今回の利下げは今後の景気の減速を意識した予防的なものとなる。確かに予防的利下げもあってしかるべきだが、現状、米国経済や物価を取り巻く環境が悪化したり、株価が急落するなどしているわけではない。それどころか米国の代表する株価指数は過去最高値を更新していた。利下げする必要性はなかったはずであるが、少しでも景気が減速すると市場は金融政策に期待してしまい、そこにトランプ大統領が利下げ圧力を掛ける構図となり、その結果、追い込まれての今回の利下げというのが正直、本音ではなかろうか。

 このためパウエル議長はFOMC後の会見で、「この利下げの本質は、サイクル半ばでの政策調整だとわれわれは捉えている」とし、「長期にわたる一連の利下げの始まりではない」と説明。その上で、「一度きり(の利下げだ)とは言っていない」とも加えた(ブルームバーグ)。

 政策調整という言葉により、利下げ局面に入ったとの観測は否定した。ただし、その政策調整が再度必要になる可能性も意識した発言となっていた。

 今回のFRBの利下げについては、前回の利上げのときと同様に、いったん利下げをしたのち、1年程度の期間を置いて状況を確認するのではないかと個人的にみている。ただし、利上げについては誰も催促はしないものの、利下げについては今後もトランプ大統領や市場からの圧力が掛かることも予想され、いずれ追加利下げに追い込まれる可能性もゼロではない。ただし、来年は米国の大統領選挙があり、その期間中、FRBは政策変更はしないというのが暗黙の了解ともなっている。いまのところ利下げのスケジュール感は読みづらい。

 ここで注意すべきは、FRBの過去の政策変更時には、いったん利下げか利上げを始めた場合、予防的かどうはさておき、結果としてそれを何度か継続させていることである。このため、今回の利下げは結果として利下げ局面のスタートにすぎないとの見方もできる。つまり過去の政策変更時のパターンから見る限りにおいて、今後、米国景気は本格的に悪化してくる可能性があるということにも注意する必要がある。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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