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米国の利下げは本当に必要なのかという声も

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 7月11日の欧米市場はどこか気迷い気分を強めたような格好となっていた。

 ここにきての金融市場を取り巻く最大の焦点は7月30、31日でのFOMCでの利下げの有無であったと思う。パウエルFRB議長は10日の米下院委員会の証言で、より緩和的な金融政策の必要性が高まっているとの認識を示した。さらに11日の上院銀行委員会での証言で、米当局が追加緩和にオープンであることを示唆した。これを受けて次回のFOMCでは0.25%の利下げが実施されるであろうことを市場は織り込んできた。

 31日のFOMCの利下げについて疑問を抱いている人達もいる。リッチモンド地区連銀総裁は11日、利下げの根拠は乏しいとの認識を示した。アトランタ連銀総裁も11日、物価見通しが悪化している明確な兆候はないとし、利下げに反対する姿勢を示した。

 これに対してニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は11日、米経済の重しとなっている不確実性や弱いインフレ率を受け、利下げの根拠が強まっていると述べた。ニューヨーク連銀総裁は執行部と言ってもよい立場にあり、これはパウエル議長意向をく汲んだものとの見方もできよう。

 11日発表された6月の米消費者物価指数は前年同月比1.6%上昇に止まったのに対し、エネルギーと食品を除いたコア指数は2.1%上昇となり、予想を上回る伸びとなった。FRBの物価目標はCPIではなくPCEデフレータではあるものの、注目される物価指数のひとつが2%を上回っているという事実も無視はできない。

 11日の米債は30年債入札が低調だったこともあるが、コアCPIも意識されて売られ、米10年債利回りは2.14%と前日の2.06%から大きく上昇していた。2%がひとつの抵抗ラインとなりつつある。

 さらに欧州の国債もイタリアなど除いて総じて売られている。7月4日にドイツの10年債利回りはマイナス0.40%とECBの中銀預金金利であるマイナス0.4%と同水準にまで低下した。ここでドイツの国債利回りはボトムアウトした可能性もある。11日のドイツの10年債利回りはマイナス0.23%とマイナス幅を縮小させてきている。

 欧米の株式市場も11日はまちまちとなっており、ダウ平均227ドル高となり、S&P500も買われて最高値を更新したが、ハイテク株は売られ、ナスダックは6ポイント安となった。欧州の株式市場はロンドン株式市場を含めて続落となっている。

 これらの動きについては、それぞれ説明は可能かも知れない。11日の欧米の株式市場では米政権が医療費削減に向けた計画を撤回したことも材料視されていたが、少なくともFRBの月内の0.25%程度の利下げは織り込んできたが、それによるインパクトも織り込み済みといったところなのか。

 市場ではその先を読み出しているのかもしれない。リッチモンドやアトランタだけでなくダラス、フィラデルフィア、クリーブランドの各連銀総裁も利下げの必要性を疑問視している。これは5日の米雇用統計、さらに11日のCPIをみても足元の景気や物価がしっかりしていることをうかがわせるため、当然といえよう。

 そのようななかにあって、市場に促されるように利下げを模索するパウエル議長の動きについて警戒感を強めているようにも思える。利下げを求めるトランプ政権に弱腰の姿勢を示しているのではともとらえかねない。このため7月31日の金融政策の決定について、全員一致での利下げ決定は考えづらい。

 金融政策を決める上で、イングランド銀行では総裁案が通らなかった事例があり、日銀でも同数となったこともあった。果たして31日のFOMCではどのようなかたちで金融政策が決定されるのかは、いまのところ予断は許さない。市場の多くはパウエル議長などの執行部を応援するかもしれないが、足元のファンダメンタルズや株価指数などを見る限り、本当に利下げは必要なのかと疑問視するむきも当然いるはずである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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