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消費増税延期論への懸念

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 リーマン並みという言葉が使われることがあるが、これはたぶん2008年9月のリーマン・ショック時のことを示していると思われる。しかし、リーマン並みということは具体的にどういったことを示すのであろうか。リーマン・ショックとは、たぶん一般的に認識されているのは、サブプライムローン問題をきっかけとした米国の金融機関の経営危機による世界の金融経済への影響とみられる。

 このときの株価の下落や円高、それにも影響されての日本国内の景気後退などを示すのか。現実にはリーマン・ショックによる国内金融機関への影響は欧州などに比べても極めて限定的であったし、国内景気への影響も欧米に比較すればそれほど大きくはなかった。

 リーマン・ショックは、百年に一度とされる世界的な金融経済危機のひとつとされているものの、日本ではむしろ平成に入ってから国内の金融機関がバタバタ倒れた金融危機による影響のほうが大きかったはずである。現在の国内景気の低迷、雇用体系に変化もあっての賃金の上昇の鈍さ、株価の戻りの悪さ、そして物価の低迷も、いわゆるバブル崩壊による国内の金融危機による影響が大きかったはずである。

 いわゆるリーマン並みの危機が来れば、消費増税を延期すると首相などは言っているが、具体的になにがどうすればリーマン並みの危機というのであろうか。その具体的な目安がなければ、リーマン並みという捉え方にはかなりの幅というか、それぞれの恣意的な解釈が可能となってしまう。

 2016年の伊勢志摩サミットで、安倍首相が「世界経済はリーマン・ショックの前と似た状況だ」という認識を示したとされている。これがきっかけで2017年に予定されていた消費増税が延期されることになるが、このリーマン並みという認識に関して、少なくとも首相と市場の間に極端な温度差があったことも事実である。

 その消費増税が今年の10月に予定されている。消費増税をすべきかどうかについては、意見は分かれよう。個人消費など景気への影響も出てくることは予想される。しかし、日本の社会保障費の拡大への対応、さらには政府債務の膨張には一定の歯止めも必要であることも確かであり、その手段のひとつが消費増税であることも確かである。

 しかもすでに消費増税への対策も今年度の予算も組まれている。消費増税を再延期するが対策はそのままというのでは、政府の財政規律そのものに疑いの目が向けられる懸念がある。信用はこつこつ積み上げなければならないが、崩れるのはあっという間となろう。

 これだけ国債が発行され、政府債務残高が増え続けても、日本の長期金利が低位で安定しているのは、市場関係者における見えない信用に支えられているといっても過言ではない。それが裏切られることになれば、金利を抑えられなくなるということも当然ありうることに注意すべきである。それを中央銀行の政策で抑えることは一時的に可能であっても、国債への信用が失墜していれば、むしろ火に油を注ぐようなことになりかねない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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