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トランプ大統領のニューディール政策?

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 1933年3月4日に米国大統領に就任したルーズベルトは、議会に働きかけて矢継ぎ早に景気回復や雇用確保の新政策を審議させ、最初の100日間でこれらを制定させた。ルーズベルト大統領が打ち出したこれらの政策はニューディール政策と呼ばれ、これにより米国経済は徐々に立ち直りを見せるようになった。ちなみにニューディールとは、トランプゲームの際に親がカードを配りなおすことである。

 現在の米国のトランプ大統領が好きな言葉というか、ツイートのなかで良くみられる言葉がディールである。このため、トランプ大統領による他国との交渉はある意味、新たなディール政策とも、ややこじつけながら言えるのではなかろうか。

 たとえば5月9日の米中の閣僚級での通商会議を前にしてトランプ大統領は次のような発言をしていた。

 「あすには(劉鶴)副首相がワシントン入りするが、彼らはディールを破った。それはしてはならないことだ。代償を払うことになる。仮にディールが成立せず、(米国が)年間1000億ドル超を得ることになっても全く異論はない」と語った(ロイター)。

 これを受けて米中通商交渉は土壇場になってひっくり返された。まさにニューディール(カードの配り直し)とならざるを得なくなったのである。

 今回、米国の態度を硬化させたのは、中国の産業補助金を巡る問題とされている。中国は米国側がある程度譲歩すると読んでいたのではとの節もあった。中国側としては改革案を明記することを控えようとしたものの、これに米国側からの怒りを買ったとされている。

 中国に対する強硬派とされるライトハイザー通商代表部(USTR)代表が、米中通商交渉で中国側が姿勢を後退させたと大統領に報告し、これが上記のトランプ大統領のツイートによる関税引き上げ警告につながったともされている。

 外交は確かに駆け引きであり、ディールという言葉が使われてもおかしくはない。しかし、それでもディールという言葉にやや違和感もある。お互いに強気を通そうとしても、引くところは引くということがないと駆け引きにならない。無理矢理妥協を求めてもこじれるばかりとなる。

 16日には中国の商務部の報道官が通商交渉に対して米政権を強く批判した。そして、CNBCテレビが米中の貿易協議が一時中断しているもようと報じた。

 金融市場では、いずれ米中の通商交渉はうまくいくという楽観的な見方もある。トランプ大統領も、うまくいく気がすると語ったようだが、少なくともライトハイザー氏らが妥協するとも思えない。これはディールというよりも、勝つか負けるかという取引(ディール)にも見えてしまう。これでは交渉も平行線を辿るほかはないように思われるのだが。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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