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仮想通貨の呼び名を「暗号資産」に変更する理由

久保田博幸金融アナリスト
(写真:アフロ)

 政府は15日の閣議で、仮想通貨の交換業者や取引に関する規制強化策を盛り込んだ金融商品取引法と資金決済法の改正案を決定した。20か国・地域(G20)会議などで使われる国際標準に表現を統一し、仮想通貨の呼び名を「暗号資産」に変えるほか、サイバー攻撃による流出に備えて顧客に弁済するための原資を持つことを義務づける(15日付日経新聞電子版)。

 すでに、これまで仮想通貨と呼ばれていたものは、G20をはじめ国際会議で「暗号資産(crypto-assets)」という表現が主流になりつつあり、日本もそれに合わせて呼び方を変えることになる。

 円やドルなど法定通貨との混同を防ぐため明確に区別する必要性に加え、交換の容易性、価値の安定、保管の安全性などにおいて欠点も露出しており、通貨と呼ぶにはふさわしくないとの判断とみられる。

 仮想通貨はキャッシュレス化の旗頭的な存在ともいわれていたときがあったが、キャッシュレス化がすなわち仮想通貨ではない。既存の法定通貨に取って代わり、国に縛られずに資金の移動も可能となる未来の通貨といった認識もあったが、通貨にとって必要な信認そのものが得られることがなかった。

 キャッシュレス化の推進の理由として、現金はマネーロンダリングなどを通じて犯罪にも使われるために必要との意見もあった。ところが、結果として仮想通貨の持つ不備をつかれ、北朝鮮が仮想通貨の630億円あまりを盗んでいたとの報告書も出ていた。むしろマネーロンダリングなどに使われやすいものであった。

 石でも貝でも紙でも金でも通貨として使うことはできることを歴史が証明している。しかし、それはあくまで使う人達の相互の信認があっての利用となる。ハイパーインフレが起きているベネズエラなどでは自国通貨への信認が失墜し、それよりは仮想通貨の方が相対的に安心とされるかもしれない。しかし、管理通貨制度がしっかりし、国や中央銀行への信認が得られている国の通貨は、やはり使いやすい。その通貨への信認が続く限りは、法定通貨による決済のキャッシュレス化は進められても、通貨そのものが仮想のものに取って代わるという事態は考えづらい。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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