インバウンド向けとは切り離し、国内情勢に応じたキャッシュレス化を推進すべき
安倍晋三首相は2日、東京都品川区の戸越銀座商店街を訪れ、現金を使わずに買い物をする「キャッシュレス決済」の導入状況を視察するとともに実際に支払いを体験した。首相はこの日、商店街のコンビニでプリペイド式の電子マネーを作り、鮮魚店でサーモンや大トロなどの刺し身を購入。生花店では昭恵夫人に贈るという花束を2次元バーコード「QRコード」を用いた支払いサービスで決済した(2日付産経新聞)。
政府はキャッシュレス決済によるポイント還元制度を10月に控えた消費増税対策の柱と位置づけており、今回の首相の行動はそのためのデモンストレーションの一環であったかと思われる。
安倍首相はツイッターで下記のようにもコメントしていた。
「今、海外では、キャッシュレス決済が急速に普及しています。外国人観光客4000万人時代に向けて、大胆な5%ポイント還元で、日本でもキャッシュレスを一気に拡大したいと思います。」
このコメントは少し注意して読む必要がある。ひとつは「今、海外では、キャッシュレス決済が急速に普及しています。」との部分であるが、いかにも日本が遅れているかのような発言に見えるが、視点を変えれば日本はキャッシュレスの先進国とも言えよう。
キャッシュレスは何もQRコード決済だけではない。確かにQRコード決済は日本では進んでいないが、交通系やコンビニ、スーパーなどでの電子マネーは普及している。何よりも給与の銀行振り込みなどはかなり昔から普及している。クレジットカードの利用も普及しており、アマゾンなどの登場により、家から一歩も出ずに現金を用いず、商品が届くようなシステムもできあがっている。
ただし、「外国人観光客4000万人時代に向けて」との部分は確かに考慮する必要がある。しかしそれは、例えば春節の中国観光客向けのQRコード決済を普及させる必要があるのかどうかとの問題であり、それはあくまで訪日外国人客(インバウンド)向けの話であり、国内向けのキャッシュレス化とは切り離して考える必要がある。
中国からの観光客が多いことは確かであり、すでに観光客が多く来るところでは日本でも「ALIPAY(アリペイ)」「WeChatPay(ウィーチャットペイ)」が利用できるところも増えてきているようである。
しかし「日本でもキャッシュレスを一気に拡大したい」のであれば、日本の情勢に応じたキャッシュレス化を推進する必要があろう。
中国やスウェーデンなどではQRコード決済が普及しているが、韓国や台湾、香港などでは電子カードなどが使われている。台湾や香港などでは日本のSuicaのようなカードが交通やショッピングなどで利用でき、日本からの観光客にとっても必須のアイテムとなっているようである。
日本でアリペイなど海外仕様のものを普及させるよりも、すでに国内で普及しているSuicaなどの利便性を高めることで、訪日外国人客向けにも国内発行の電子マネーの利用促進を図る方が理に適う。
電子マネーの普及の大きな目的は購買データを得ることであり、そのデータは国産のものを利用することが求められるのではなかろうか。そのためには「大胆な5%ポイント還元」などより、政府が先導して国産の統一カードを作るといった方向性も必要なのではなかろうか。