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日銀は残存25年超の国債買入を小幅減額、これを受けて超長期国債主体に下落したのは何故か

久保田博幸金融アナリスト
(写真:角倉武/アフロ)

 21日に日銀は定例の午前10時10分での国債買入で、残存1年超3年以下、残存3年超5年以下、残存10年超25年以下に関しては、それぞれ買入額は前回と変わらずとなったが、残存25年超に関しては、オファー額を前回から100億円減額して500億円とした。超長期ゾーンについては、発行額そのものが中長期債と比べて少ないこともあり、いずれ減額はあるとの見方は出ていたものの、タイミングとしてはサプライズとなった。

 何故、このタイミングとなったのか。それは日銀の金融政策決定会合が終わったあと、そして自民党の総裁選も終わったあとのタイミングを狙った可能性とともに、9月の月末州となれば金融機関の中間決算にも影響を与えかねないとの配慮があった可能性がある。

 今回の減額幅はわずか100億円となっていたにも関わらず、21日の債券市場では超長期ゾーンを主体に大きく下落した。40年債利回りは1.045%と昨年11月以来、30年債利回りも0.890%と昨年10月以来、20年債利回りも0.645%と昨年4月以来の水準に上昇した。つまり今年の最高利回りをつけた格好となった。ちなみに債券は利回りと価格が反対方向に動くことで、価格としては大きく下落したことになる。これを受けて債券先物も売りに押され、150円00銭まで下落した。10年債利回りも0.130%に上昇した。

 100億円がわずかなのかというご指摘があるかもしれない。債券の世界にいると金額の大きさに麻痺してしまうことがある。個人で億単位の金額を扱うことはそうそうないと思うが、債券の世界では億単位で売買するのが普通であり、日銀は年間に数十兆円もの国債を買い入れているわけで、100億円程度の修正による影響は本来限られるはずであった。

 しかし、今回少し過度に反応していたのには理由がある。米長期金利がここにきて節目とされた3%を上回ってきており、米国のダウ平均は過去最高値を更新し、これらはリスクオンの動きとも認識された。このためドル円も112円台を回復し、日経平均は24000円に接近し、年初来高値も見えてきた。

 ところが債券市場はこういった動きにあまり反応しなかったのである。日銀が大量に国債を買い入れており、需給はタイトな状況が続いている。日銀が長期金利調節のレンジを少し拡大しても、結局、債券市場はまた動かなくなってしまったではないかとの認識も広まっていた。

 米債が売られて10年債利回りが3%を付けようが、円債への売りは限られていたものの、それでも外部環境が円債にとって悪化していることは確かであり、何かしらのきっかけで売りが入りやすい状況にあったと思われる。

 そして、わずか100億円の日銀による国債買入減額がそのきっかけとなったのである。もちろんこれで仕掛け的な動きをしてきたのはヘッジファンドを主体とした海外勢とみられる(手口は見えないため確実ではないが)。21日の債券先物の中心限月の出来高は久しぶりに5兆円近くなっていたことからも、債券先物に仕掛け売りが入ったとみられる。この日の現物債の商いも久しぶりに1兆円を超えてきた。

 これで売り方に弾みがつくかどうかはわからない。債券先物は150円ちょうどが抵抗線のかたちとなった。そして10年債利回りは日銀が7月31日の金融政策決定会合で長期金利調節レンジ幅を拡大させたあと、指し値オペではなく通常のオペによってブレーキを掛けた10年債利回りの0.145%が節目となる。ここを試してくるのかどうか。25日以降の日本の債券市場の動きに注意したい。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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