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金利なき世界は健全といえるのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 シェアハウスへの不適切な融資を巡る問題で、スルガ銀行の第三者委員会が調査報告書をまとめた。審査資料の改ざんなど様々な不正に、支店長を含む多数の行員が関与、借り手の預金残高を改ざんして自己資金があるように装い、融資条件をクリアさせるなど悪質な手口が目立っていた(読売新聞)。

 銀行など金融機関にとって、本来その収益源となるのが金利である。しかし、日本の金利はデフレ脱却というか2%の物価目標を達成しなければならないとの政府の意向を受けた日銀による異次元の金融緩和策で押しつぶされている。短期金利とともに市場で流通している中期債の利回りもマイナスとなっている。長期金利も0.1%程度に抑え込まれてしまっている。

 金融機関が金利で稼げないとなれば、よりリスクのある資産で運用するか、手数料収入を得るため投資信託の販売などを積極化する必要がある。本来であれば、融資などについてもかなり慎重であり、その運用も本来手堅いはずの銀行などの金融機関が、その収益を求めてかなりリスクのある運用や、結果として顧客にリスクを負わせるかたちでの収益増を求め、なかにはスルガ銀行のように違法な取引にも手を出す事例まで出てきてしまっている。

 銀行などが販売する投資信託で、顧客である個人がなかなか利益を挙げられないという事例も目立つようである。これは昔の証券会社が行っていたような途中売却と新規買入で回転させて手数料を得るようなこともあるのではなかろうか。個人向け国債についても、解約できない期間を過ぎると売却が目立つとされる。これも新規買入の際の募集手数料目当てではないかと勘ぐられてもいたしかたない。

 金利がない、もしくは金利がマイナスの状況下においては、金融機関が無理な営業をせざるを得なくなることはある意味、致し方ない面もあるかもしれない。しかし、決してこれは健全な姿とはいえない。個人にとっての、貯蓄から投資への動きへの阻害要因ともなりかねない。

 個人にとってもほとんど金利が付かない世界のなかで、より高い金利を求めるあまり、リスク商品に手を出して、収益どころか損失が発生している事例も多かろう。

 金利なき世界の大元の原因が日銀の政策だけにあるわけではない。しかし、ファンダメンタルズなどとは乖離し、我々が本来得られるはずの、金融機関にとっては利ざやとなるはずの金利を無理矢理潰して、それが金融機関に、いや我々にも負担をしいていることは確かではなかろうか。それでいったい、政府債務リスクを覆い隠す以外のもので、何が得られているというのであろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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