Yahoo!ニュース

4月のロシアによる米国債の保有高が前月から半減したのは政治目的なのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 米国の財務省が先日公表した米国債国別保有残高(MAJOR FOREIGN HOLDERS OF TREASURY SECURITIES)によると、4月にロシアが保有している米国債を大量に売却し、保有額が半減していた。ちなみに中国による米国債の保有額については小幅な減少に止まっていた。

「MAJOR FOREIGN HOLDERS OF TREASURY SECURITIES」

http://ticdata.treasury.gov/Publish/mfh.txt

 これによると4月の国別の米国債保有高のトップは引き続き中国。4月時点の中国の米国債保有額は1兆1819億ドルとなり、3月の1兆1877億ドルから58億ドル減少していた。

 今年1月に中国当局が米国債の購入縮小もしくは停止を検討していると報じられたが、その後中国当局が米国債購入の縮小または停止を検討しているとの報道は否定した。3月に中国の駐米大使が米国債の購入減額について「あらゆる選択肢を検討している」と含みを持たせた。つまり、報復措置として米国債の購入を減額するなどの手段を講じる可能性を示した。

 中国による米国債の保有高は今年1月は昨年12月に比べて減少していたが、2月と3月は「増加に転じ」昨年12月の水準に戻した。4月にやや減少させていたものの、報復措置として米国債の購入を減額するなどの手段は講じられてはいない。

 中国の3月末の外貨準備高は前月比90億ドル増の3兆1430億ドルと再び増加に転じていた。しかし、4月は再び減少し3兆1200億ドルとなっていたことで、4月の中国による米国債保有高の減少はこれで説明がつきそう。

 今回も2位となっていた日本による4月の米国債保有額は1兆312億ドルと3月の1兆435億ドルから123億ドルの減少となっていた。

 さて問題のロシアによる米国債保有高であるが、4月は487億ドルと3月の961億ドルから474億ドルの減少となっていた。日経QUICKニュース(NQN)によると、「米国がロシアのアルミ大手ルサールへの経済制裁を打ち出すなど、2016年の米大統領選への介入疑惑やシリア問題を巡り米ロ関係が急速に悪化した時期と重なる」とされる。

 しかし、政治的な配慮によってロシアによる米国債保有高を減少させたとなると、さらに米国とロシアの関係悪化に火が付きかねない。日経QUICKニュース(NQN)の記事でも指摘されていたが、ロシア政府がルーブル買い・ドル売りの原資確保を目的に主に米債で運用する外貨準備の一部を取り崩したとみるのが現実的か。

単位、10億ドル、()内は前月比増減

トップ10

中国(China, Mainland) 1181.9(-5.8)

日本(Japan) 1031.2(-12.3)

アイルランド(Ireland) 300.4(-17.5)

ブラジル(Brazil) 294.1(+8.1)

英国(United Kingdom) 262.7(-1.0)

スイス(Switzerland) 242.2(-3.2)

ルクセンブルク(Luxembourg) 213.9(-7.7)

香港(Hong Kong) 194.0(-2.2)

ケイマン諸島(Cayman Islands) 180.7(-15.2)

台湾(Taiwan) 168.1(-2.0)

22位

ロシア(Russia) 48.7(-47.4)

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

牛さん熊さんの本日の債券

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月20回程度(不定期)

「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、当日の債券市場を中心とした金融市場の動きを牛さんと熊さんの会話形式にてお伝えします。昼には金融に絡んだコラムも配信します。国債を中心とした債券のこと、日銀の動きなど、市場関係者のみならず、個人投資家の方、金融に関心ある一般の方からも、さらっと読めてしっかりわかるとの評判をいただいております。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

久保田博幸の最近の記事