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慎重ながらも正常化に向けて舵を取ろうとしているECB

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 11日に発表された昨年12月14日のECB政策委員会の議事要旨では、「金融政策姿勢や、政策方針(フォワードガイダンス)のさまざまな次元に関わる文言について、来る年(2018年)の初めに再検討を加える可能性がある」と指摘した(ロイター)。

 何を言いたいのかこの文面だけではわかりづらい。ただし、一部のメンバーの間からは金融状況の追加緩和は不要との意見が出ており、ECBが後手に回らないよう警鐘を鳴らすメンバーもいた。

 すでに執行部の6人のなかで、クーレ理事(フランス)とメルシュ理事(ルクセンブルク)、ラウテンシュレーガー理事(ドイツ)は量的緩和策の再延長には消極的な姿勢を示していた。

 プラート理事(ドイツ)もフォワードガイダンスは量的緩和の終了が近づくに伴い金利中心になっていくだろうと述べていた。

 ドラギ総裁(イタリア)、コンスタンシオ副総裁(ポルトガル)は量的緩和策の再延長に関して具体的な姿勢は示していないものの、今回の議事要旨の「再検討」の部分については、債券購入プログラムの終了を視野に入れてのものであろう。

 ただし、ECBの出口政策はそれを封じている日銀ほどではないが、極めて慎重であることも事実である。今回のECB政策委員会の議事要旨を受けてユーロ高が進んだが、できる限りマーケットの過剰反応は抑えたいものとみられる。

 それでも域内の経済成長の拡大も見込まれ、原油価格の上昇による物価への波及効果も意識するとなれば、少なくとも追加緩和は選択肢から外される。量を減らしながらも延長した資産買入については、停止する可能性が見えてきた。その後の利上げについてまでは、踏み込むのは時期尚早となろうが、ECBも慎重ながらも正常化に向けて舵をとろうとしていることが伺える。

 これを受けて11日のドイツの10年債利回りは0.58%に上昇した。これは昨年7月につけた利回りにほぼ並んできたことで、ここを抜けてくると0.9%あたりまで節目はない。ECBの正常化、それを可能にするユーロ圏内の景気の拡大、物価動向次第ではユーロ圏の国債利回りも今後、上昇基調に転じる可能性が出てきている。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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