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トランプ大統領がパウエル理事をFRB議長に指名した理由

久保田博幸金融アナリスト
トランプ大統領と次期FRB議長に指名されたパウエル理事(写真:ロイター/アフロ)

 米国のトランプ大統領は11月2日に来年2月に任期満了を向かえるイエレンFRB議長の後任に、FRBのパウエル理事を指名した。

 トランプ大統領は5人の候補に絞り込んだとされ、その候補にパウエルFRB理事、ウォーシュ元FRB理事、テイラー米スタンフォード大教授、コーン国家経済会議(NEC)委員長、そして現職のイエレン議長がいた。

 トランプ大統領は米国経済の回復や株価上昇の功労者とも言うべきイエレン議長の再任も考慮に入れていたようである。イエレン議長の前任のバーナンキ氏やその前のグリーンスパン氏は再任されており、イエレン議長の再任の可能性は十分にあった。

 しかし、ここにいくつかの壁が存在していたものとみられる。そのひとつが議会での承認の可能性である。イエレン議長は民主党政権下で米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務めるなどリベラル色が強いとされている。それでなくても議会との衝突も多いトランプ大統領だけに、ここで議会ともめてしまうことは避けたいところであろう。

 そのあたりも考慮してか、ムニューシン財務長官が強くパウエル理事を推していたようである。トランプ大統領は最終的にムニューシン財務長官のアドバイスを受け入れた格好となった。

 イエレン議長とムニューシン財務長官は結構な頻度で会っており、特に反目し合っていたとは思えない。イエレン議長とパウエル理事の考え方も似ている。パウエル理事はイエレン議長の政策に対して表立って異を唱えることなく、むしろイエレン議長を支える立場にあった。ムニューシン財務長官は金融政策への考え方といったものではなく、政治上の理由なども配慮して大統領にアドバイスしたのではなかろうか。

 パウエル理事は歴代のFRB議長と違ってエコノミストではない。しかし、必ずしもFRB議長がエコノミストである必要はなく、すでに5年間、FRB理事を務めており、むしろその実務経験が役立つ可能性も高いのではなかろうか。

 パウエル理事がFRB議長となっても現在のFRBの正常化に向けた路線は継承されよう。むしろ問題となるのは、理事の空席かもしれない。副議長は2人体制となり、クォールズ氏が指名され、上院で承認された。しかし、フィッシャー副議長の辞任によりもうひとつが空席となっている。

 パウエル理事が議長に昇格し、イエレン議長が来年2月で退任するとなれば、理事の空席が増えることで、大きな入れ替わりも想定される。また、ニューヨーク連銀のダドリー総裁も2018年半ばで退任すると発表しており、体制が大きく変わることになりそうである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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