日銀の国債保有額が減少しているという事実
日銀が3日に公表した「日本銀行が保有する国債の銘柄別残高」によると、9月末現在の日銀保有の国債残高は額面ベースで394兆3525億円となり、前月末の394兆5789億円に比べて減少した。前月比で日銀保有の国債残高が減少したのは、黒田日銀総裁が就任した2013年3月以来、4年半ぶりとなる。9月は国債の償還月でもあり、買入額以上の償還があったことになる。
日銀は2016年9月21日の金融政策決定会合において、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」と名付けられた金融政策の新しい枠組みの導入を決めた。これは長短金利の操作を行う「イールドカーブ・コントロール」と消費者物価上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで資金供給拡大を継続する「オーバーシュート型コミットメント」が柱となった。
日銀が異次元緩和と呼ばれた量的・質的緩和政策を2013年4月に決定した際、「量的な金融緩和を推進する観点から、金融市場調節の操作目標を、無担保コールレート(オーバーナイト物)からマネタリーベースに変更」するとした。このときから日銀の金融政策の操作目標が「マネタリーベース」となっていた。ところがこの際の日銀の枠組み変更には「マネタリーベースの目標値」がなくなっていた。その代わりに「金融市場調節方針は、長短金利の操作についての方針を示すこととする」とあり、日銀の操作目標は長短金利となった。
日銀は長期国債の買入れについて、その買入れ額については概ね現状程度の買入れペース(保有残高の増加額年間約80兆円)をめどとしつつ、金利操作方針を実現するよう運営するとした。買入対象については引き続き幅広い銘柄とし、平均残存期間の定めは廃止するとしている。ここにも大きな重要な修正があった。
これが何を意味するのか。「平均残存期間の定めは廃止する」ことで買い入れる国債については、かなりフレキシブルな対応が可能となった。2013年4月の異次元緩和では「長期国債買入れの平均残存期間を2倍以上に延長する」ことも大きなポイントとなっていた。以前の日銀が中短期債ばかり買い入れており、それでは効果がないとのリフレ派の主張を取り入れたのが量的・質的緩和であったが、そこから距離を置くことになる。
「保有残高の増加額年間約80兆円」というめどの文章はいまだに残されているが、実際には60兆円を割り込んでおり、いずれ木内前審議委員が修正すべきとしていた45兆円程度になるとの予想もある。
日銀が「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を決定した背景には、物価目標達成のために量的緩和だけでなく、長期金利操作も加えてやれることは全部やる的な政策に見せることがあったと思うが、実際には操作対象を量から金利に切り替えることで、いずれ限界が見えてくる国債買入額の調整を行うことになった。
「保有残高の増加額年間約80兆円」というめどは残しても、現実にはその数字に縛られる必要はなくなっており、また日銀の国債保有残高が減少しても長期金利が大きく上昇することもなかった。これにはイールドカーブ・コントロールが効いているとの見方も出来よう。しかし、量でも物価を動かせなかったにも関わらず、長期金利を操作することで果たして物価を動かせるのか。そして、本当に長期金利はコントロールできるのか。日銀はひとまず量に関わる問題は先送りできたが、いずれ長期金利のコントロールで課題を抱える可能性がある。