日銀の物価目標の2%を見直す必要性
8日に神戸大学のシンポジウムで浜田宏一・内閣官房参与は「雇用が確保されていれば、インフレ率は低い方が良い。インフレ目標は達成しなくても良いと思っている」と2%のインフレ目標にこだわらない考えを表明したそうである(神戸大学のサイトより引用)。
7月23日に審議委員の任期を終え、野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミストに就任した木内登英氏は8月4日にブルームバーグとのインタビューで、もともと2%の物価目標にはっきりした根拠はなく、日銀はその点で「思考停止になっている」と指摘した。本当に2%が妥当なのか「根本から問い直すことが非常に重要だ」と語ったそうである。
日銀は2012年2月に物価安定の目途(コアCPIの1%)を示すことにより、実質的なインフレ目標策を導入していた。これはこの年の1月にFRBが物価に対して特定の長期的な目標を置きPCEデフレーターの2%に置いたことで、日銀も同様の目標値を設定したとみられる。ただし、それまでの日本の物価の推移等から日銀の目標値は2%ではなく1%に置いたとみられる。
ところが2013年1月22日の金融政策決定会合で、日銀は政府からの要請のあった「物価安定の目標」をあらためて導入することを決定した。この際に日銀は、物価安定の目標については、物価安定の目途というところを修正し、目途(Goal)を目標(Target)とした上で(より厳格化)、その目標を消費者物価指数の前年比上昇率で2%とした。浜田宏一氏は2012年12月に内閣官房参与に就任しており、日銀に物価目標2%を設定させた人物のひとりとも言えよう。
この2%という物価目標に対しての日銀の説明は、グローバルスタンダードであるためとしている。日銀の黒田総裁は2014年3月の講演で下記のような説明をしている。
「英国、カナダ、ニュージーランドなどで、インフレ・ターゲットを2%としているほか、米国でも長期的な物価安定のゴールを2%としています。また、ユーロ圏では、物価安定の数値的な定義を示すというかたちをとっており、その値は、2%未満かつ2%近傍となっています」
しかし、日本の消費者物価指数(除く生鮮)の前年比を2004年1月から2017年4月までのデータでみると平均はほぼゼロ%となっていた。その間の米国のコアCPIは2%近辺となっており、ほぼその数値に集約する傾向があった。
これをみても日本の物価については欧米の物価基準がそのままあてはまらない可能性がある。それは浜田氏も当時属していたとされるリフレ派の主張していた、こびりついたデフレ意識が強すぎたためそれを大胆な金融緩和で変える、ことができなかったことを日銀はむしろ異次元緩和によって証明してしまうことになった。
むろんいったん目標値を設置してしまった以上、それを修正するとなれば市場への影響も大きくならざるを得ない。それでも浜田氏や木内氏の発言にあったように本当に2%が妥当なのか根本から問い直す必要性はあると思う。その上で欧米の中銀のようにもう少し柔軟性を持たせた物価目標に修正することも今後、考慮していっても良いのではなかろうか。