イングランド銀行やカナダ銀行の総裁も利上げ示唆の意味

(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

27日にポルトガルで開催されたECBの年次政策フォーラムで、ECBのドラギ総裁は景気回復に即した緩和策の調整、つまり景気が順調に回復するのであれば、緩和効果を一定に保つための利上げの可能性を指摘した。

ただし複数の関係筋からとして、この総裁の発言について、総裁は弱めのインフレ期間への容認を示したものであり、差し迫った政策引き締めを意図していないとの見方を示した(ロイター)。

市場が予想以上に反応したため、少し火消しに走ったものとみられ、これはドラギ総裁の発言を否定するものではない。

カナダ中銀のポロズ総裁も同フォーラムで、次回7月の会合での利上げの可能性に言及した。すでにウィルキンス上級副総裁は6月12日の講演で利上げの準備が整っていると、これまでで最も強い調子で示唆していた。

さらに今度は、イングランド銀行のカーニー総裁が同フォーラムで、中銀は利上げを実施する必要が出てくる可能性があり、MPCはこの件について向こう数か月以内に討議すると述べた。カーニー総裁は20日にロンドン市内での講演で「今はまだ金融政策の調整を開始するときではない」とし、利上げは時期尚早との認識を示したばかり。

このときのMPCでは、フォーブス委員だけが利上げを主張するとみられていたのが、そこにマカファーティー、ソーンダーズ両委員が利上げ派に加わった。さらにチーフエコノミストのアンディ・ホールデン理事からも政策引き締めを遅らせ過ぎることのリスクが高まっているとの認識が示された。カーニー総裁による時期尚発言は、利上げ賛同派が増えたことによる市場の動揺を抑えるための火消しかと思われた。しかし、そのカーニー総裁自らもECBの年次政策フォーラムで利上げを示唆した格好となった。

すでにFRBは正常化に向けて利上げを行っている。バランスシートの縮小も年内に着手する予定である。イエレン議長は27日の講演で、少なくとも自分が生きているうちに再び金融危機が起きるとは考えていないと語っていたが、この認識が欧米の中央銀行にも広まりつつあるように思われる。

イングランド銀行にとっては英国のEU離脱による影響も危惧されようが、それによるポンド安と物価高も無視できなくなりつつある。ユーロ圏については金融機関等への問題やギリシャの財政問題等も残るが、少なくとも金融危機のリスクは後退というか沈静化したというのが、共通認識となっているのではなかろうか。

欧米の中央銀行による過去にない大胆な金融緩和の主目的はデフレ脱却ではない。物価目標達成も必要ながら物価そのものは日本とは違い2%に近い、もしくは英国のようにそれを大きく上回っている。

そもそも金融政策がどれだけ物価に影響を与えられるのかという疑問に対しては、特に日銀が壮大な実験を行った結果も出ていよう。少なくとも日本では消費者物価指数の構成要素などの変更がない限り、原油価格や為替動向によって一時的にコアCPIが2%台に跳ね上がってもいずれゼロ近傍に収斂する。これは日銀の金融政策如何によって動いているわけではないことは、CPIの推移と日銀の政策、もしくは原油価格の動向などを重ね合わせると理解できるはずのもので、日銀も本来は十分理解しているはずのものであろう。だから2006年の量的緩和解除の条件はCPIのゼロ%がキーになっていた。

話が少し逸れてしまったが、欧米の中央銀行による非伝統的な金融緩和を含む大胆緩和の背景にあったのものは、百年に一度という金融危機による金融経済の影響を緩和するものあった。しかし、現実には市場の動揺を沈めるという効果を意識していた。

その危機は後退し景気そのものも不透明感が薄れ、株式市場の指数は過去最高値を更新するような中、非常時の対策をいつまでも続けることによる副作用も意識されてきた。このあたりが今回の欧米の中央銀行が、非常時の政策から平時の政策に切り替えようとの動きの背景にあろう。

しかし、日銀は世界的な金融危機が沈静化しているタイミングで政権に押しつけられる格好で異次元緩和を打ち出し、本来金融政策で動かすことが困難であるにも関わらず、2%という物価目標達成を打ち出してしまった手前、引くに引けなくなってしまっている。いずれ日銀だけが蚊帳の外となり、皆帰宅してしまったのに大胆緩和組に居残り続けざるを得なくなることも想定される。

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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