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トランプショックでイタリアの国債が売られた理由

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

欧州の信用不安が吹き荒れていたころ、イタリアの10年債利回りは危険水域とされた7%を上回る場面があった。しかし、欧州の信用不安の後退により、イタリアの10年債利回りは2012年あたりからじりじりと低下した。

ECBによる積極的な緩和策、特に2015年1月に国債買い入れ型の量的緩和策の実施を決定比したことで、イタリア国債はさらに買い進まれる格好となった。

今年に入ってからの英国の国民投票でのEU離脱決定もあり、イタリア国債は安全資産として買い進まれた。今年8月にイタリアの10年債利回りは1%近くまで低下した。

しかし、英国のEU離脱決定による金融市場の混乱は一時的なものとなり、イタリアの10年債利回りは1%近辺で推移していたが、9月あたりからじりじりと上昇しはじめた。当初はリスクオフの反動となっていたが、ECBのテーパリング観測や原油先物の上昇もあってイタリアの10年債利回りは上昇ピッチを強めた格好となった。

そして11月に入り、8日の米大統領選挙でのトランプ氏の勝利を受けて、欧州の国債は総じて急落した。特にイタリアの10年債利回りの上昇が目立ち、あっさりと2%台に乗せてきたのである。

イタリアの国債がここにきて大きく売られた要因としては、米国大統領選挙でトランプ氏が勝利したことで、米国で物価上昇観測が強まり、米国債が下落したこともある。それに加えて政治的な問題も絡んでいた。

イタリア政府は憲法改正の是非を問う国民投票を12月4日に実施する。憲法の改正案は上院議会の議員定数の削減や権限の縮小など首相の権限の強化につながる内容となっている。レンツィ首相は憲法改正はイタリア政治に必要な安定をもたらすと主張、否決された場合には辞任する意向を表明していた。

世論調査では、改正反対派が優勢となっている上に、トランプ氏の勝利によってレンツィ首相を取り巻く環境に変化も生じた。イタリアでもレンツィ政権の打倒を目指すポピュリストの運動は勢いを増しつつあるとされ、12月4日の国民投票では憲法改正が否決され、レンツィ首相が辞任するのではないかとの観測が強まった。2017年の早い時期に総選挙実施となる可能性も指摘されている。

これらがここにきてのイタリア国債の下落の背景にある。もちろんイタリア国債だけが売られているわけではなく、欧米の国債が全般に売られているなか、別途材料も出ていたイタリア国債の下落ピッチが目立った格好である。しかし、12月のイタリアの国民投票が欧州の債券市場の不透明要因として認識される可能性もあるため、今後のイタリアの政治動向も注意しておく必要がある。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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