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金や原油の先物が下落した理由

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

ここにきて商品市況の下げが注目材料となりつつある。金先物は7月23日夜の時間外取引で約5年5か月ぶりの安値を付けた。ニューヨーク商業取引所(NYMEX)COMEX部門の金先物は一時1オンス1072.30ドルと、中心限月としては2010年2月以来の安値をつけた。金先物のチャートをみると下げがきつくなっており、なっている。2009年以来の1オンス1000ドル割れとなる可能性も出てきた。

金の先物よりも早く銅の先物も下落基調となっていたが、銅先物の下落は中国の経済成長にブレーキが掛かっていたことが要因とされる。日本でも一時、電線やマンホールの蓋が盗まれるといった事件が発生していたが、それだけ工業用の金属には需要があった。しかし、その需要がかなり後退しつつあることが銅の先物から伺える。

これに対して金は工業向けの需要とともに、装飾品としての需要があり、中東やインド、そして中国からのいわゆる爆買いが、一時のブームを作っていた。しかし、中国を中心とした新興国の景気減速で、そのような買いも鈍ってきたものと思われる。ただし、金については一般的な価格表示はドル建てあることにも注意が必要となる。つまり、FRBの利上げ観測等により、ドルが上昇して金価格を下支えしていたが、それ以上に価格そのものの下落圧力が強まっているということにもなる。

ここにきて原油先物の下げもきつくなっている。代表的なWTI先物は40ドル台前半から一時60ドル台に回復していたが、再び下落し50ドル割れとなっている。原油価格の下落も中国などの経済減速が影響している。原油先物の上昇を日銀は見込んでいたが、このままでいくと見込み違いとなる可能性も。そのためエネルギーを除く新コアコア指数を持ってきたのかもしれないが、原油価格の下落は物価の上昇抑制要因となる。

貴金属や原油価格の下落は、BRICsと呼ばれる新興国の経済にも深刻な影響を与えかねない。外為市場ではブラジル・レアルとカナダ・ドルは約10年ぶり安値を付け、豪・ドルも6年ぶりの安値をつけるなど資源国通貨が売られている。

7月15日にはカナダ中央銀項が今年二度目の利下げを実施した。これは原油安などによる国内経済や物価への影響を意識したものと思われる。オーストラリアもすでに今年は2度の利下げを実施したが、追加利下げが引き続き検討課題だとスティーブンス総裁はコメントした。

原油価格の下落は中東と、シェールの米国の体力勝負ともなりつつあり、日本などの原油輸入国にとっては恩恵となるが、産油国の経済には当然ながら悪影響となる。

中国を中心とした新興国経済の落ち込みが顕著になりつつある。ギリシャ問題がとりあえず後退し、次の材料を模索している最中にあり、FRBやイングランド銀行の利上げの前に、この商品市況の下落に象徴される新興国経済動向があらためて材料視される可能性が出てきた。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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