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布野日銀審議委員とは馬が合いそう

久保田博幸金融アナリスト

日銀の布野審議委員は就任の記者会見で下記の発言をしている。

「私は、実業、産業界の出身ということで、金融界や、他の方々と比べますと、経歴が多少違いますから、総裁、副総裁はもちろん、審議委員の方々、また、理事の方々の考えに耳を傾けながら、勉強しつつ役目を果たしていきたいと考えています。」

日銀の政策委員のメンバーには、学者出身のいわゆるリフレ派が適切との声も出ていたが、東電出身の森本審議委員の後任には、学者ではなく、同じ実業界であるトヨタ出身の布野氏が就任した。その理由としては布野氏の発言にあるような経歴の違いが重要になる。同じような意見の者ばかり集めては、委員会制度をとっている政策委員会の意味がなくなってしまうことになる。

「為替について、あまり深入りするコメントは避けたいと思います。私としては、為替は、やはり市場が決めていくものと考えています」

大手輸出企業のトヨタ出身であり、海外経験も長い布野審議委員は為替市場の動向は常に意識していたものとみられ、為替は市場が決めていく、との言葉は当たり前の発言ながらも、現場を知った上での発言と言えよう。

「副作用については、薬品業界にいる私の友人の話によると、副作用のない薬はないそうです。「良薬口に苦し」という言い方もありますが、やはり、副作用は常にウォッチしていかなければいけないと思っています」

これは量的・質的金融緩和が日本経済、物価に与えた効果とその副作用に対する質問である。はたして異次元緩和の副作用とは何であるのか。もう少し具体的なところも知りたいところである。

「2016年度前半頃に2%に達することですが、実体経済に身を置いてきた経験からすると、経済は生き物なので、これまでもそうですし、今後も、例えば、原油価格や米国の金融政策など、様々な要因が影響を与える、作用してくるということです。重要なことは、常にきっちりとウォッチしながら、2%についても、どういう実態にあるかをウォッチしていかなければいけないと思っています。ただ、2%を瞬間風速で達成することも然ることながら、2%というものを安定的に考えていく場合に、実体経済としての生産性がどうであるか、各産業分野で成長を支えるような実体経済の競争力のアップなどができているかをよくウォッチしていく必要があると考えています。」

少し長い引用となってしまったが、この部分は意外感があった。安倍政権が推した人物であり、実業界出身なれどリフレ政策に傾倒している人物ではないかと勝手に想像していたが、どうやらそうでもないらしい。久しぶりに日銀の審議委員から、物価目標に関する部分で、しごくまともな意見を聞いたような気がする。少なくともお金を積み上げれば物価が動くと盲信していることはなさそうである。

「2%の背景には、例えば、デフレ脱却であるとか、持続的成長があって、その中での2%と考えています。従って、2%を達成することの重要性に加えて、生産性のアップをきちんとやっていくことが、むしろ大きな命題であると申し上げたかったわけです。」

ここで2%という数字そのものを否定することはできないであろうが、2%という物価の背景にあるものをきちんと意識する必要があり、これは重要なポイントとなる。気合いや見せ金で達成すべきものとは次元が異なる。

「やはり、景気全体が本格的にどうかという意味で、デフレ脱却も本格化したかについては、引き続きウォッチしていかなければいけないという感じで私はみています。」

デフレは貨幣的な現象なのか。そうではなく景気があり、実体経済そのものの回復が結果として物価も押し上げる。当たり前の発言が新鮮に聞こえるのは何故なのだろうか。

「会合で票が割れていることについては、私は、むしろ健全ではないかと思っています。本来、色々な意見があるから会合を開いているのであり、最初から1つの意見であれば、あまり会合も機能していないという感じです」

どうやら布野審議委員とは馬が合いそうである。今後の決定会合も少し面白くなってくれるかもしれない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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