ギリシャの一発逆転劇
6月22日にギリシャのチプラス首相は、土壇場で新たな財政改革案を提出し、早期退職に伴う年金受給を制限することや付加価値税率の引き上げなどを盛り込んだ財政再建の最終案を持ち込んだ。首脳会議に先立って開いた財務相会合では、週内合意を目指す方針を確認し、首脳会議では合意に至るまでにはさらに協議が必要として結論をいったん先送りとした。ただし、ユーロ圏首脳らはギリシャ政府が新たに提出した財政再建策を、数日中の合意に向けた土台になると評価しており、順調に行けば、24日中に財務相レベルで最終合意を目指し、25日の首脳会議で正式決定となる。交渉の行方はなお予断を許さないものの、24日夜までに6月末に迫った金融支援の期限延長などで合意できる模様である。
ここにきて欧米の市場動向をみると、ある程度このシナリオを想定していたものとみられる。やや楽観的かともみられたが、少なくともチプラス首相だけでなくギリシャ国民にとっても、ユーロ離脱という選択肢は考えづらい。もしデフォルトという事態になってしまうと、そのユーロ離脱の可能性が高まることになる。ギリシャのチプラス首相としてもユーロ離脱という最悪の事態は回避したいはずであり、22日にブリュッセルの欧州連合本部で「ユーロ圏の中で成長を取り戻す」とチプラス首相は記者団に語りかけたそうである。
そこで考えられるのは、最後の最後にある程度、債権団の納得がいく案を提出することになる。時間切れ寸前まで粘ることによって反緊縮にも配慮した格好ともなる。まさに土壇場での逆転劇となるが、その案が提出されるまで、しかもその案の内容が合意に至るような内容なのかを確認できるまでは、安心出来る状況ではなかった。
また、このタイミングでのチプラス首相の訪露はドイツなどの態度を硬化させた可能性がある。22日の緊急のユーロ圏首脳会議の舞台裏で何が起こっていたのかは想像するほかはないが、ドイツなどがギリシャに対して最後通牒を突きつけてきた可能性もある。また、ギリシャ中銀のストゥルナラス総裁が国内銀行に対し、22日のユーロ圏緊急首脳会議でギリシャ政府が債権団と合意できない場合、23日の「困難の日」に備えるよう警告していたように、ギリシャ国内からも政権への突き上げがあり、改革案を提出せざるを得ない状況にチプラス政権が追い込まれていた可能性もありうる。与党・急進左派連合(SYRIZA)にとっても年金支給が止まることによる年金受給者への影響も避けたかったはずである。
いずれにせよ6月末が期限のギリシャのデフォルトリスクは後退した。しかし、これで問題がすべて解決できたわけではない。ユーロ残留のためにも十分な支援を望むのであれば、チプラス首相は妙な外交手腕などは使わず、しっかり国民と向き合って、ある程度の緊縮策を呑まざるを得ないことを丁寧に説明し、同意を得ることが必要になろう。