ギリシャのデフォルトやユーロ離脱懸念強まる
ギリシャの6月のIMF向け返済は月末に一括返済することになった。ギリシャとの金融支援を巡る交渉はいまだ難航しており、ギリシャのデフォルトの可能性についてEU当局者が初めて正式に協議したとか、ドイツの経済相がギリシャのユーロ離脱の可能性が濃厚になりつつあると発言したと伝えられた。また、ギリシャのユーロ離脱は影響がどの程度か不明とドイツ連銀副総裁のコメントもあったようである。
いずれにしても6月18日のユーロ圏財務省会合あたりまでに、ギリシャは欧州連合(EU)からの金融支援や財務省証券発行額上限の引上げなどを確保する必要がある。すでに金庫が空に近い状態になっているギリシャにとり、最後の頼みの綱といえるのが、欧州連合(EU)などによる支援となる。EUやIMFなどは現在、ギリシャの改革が不十分として、約72億ユーロのギリシャ向け融資を凍結している。この融資の凍結解除がなければ6月のIMFへの返済はかなり難しい状況となり、デフォルトが発生する懸念が出てくる。
ギリシャのバルファキス財務相は、18日のユーロ圏財務相会合で新たな改革リストを提出しない方針を示したと独ビルト紙が報じた(ロイター)。ユーロ圏財務相会合が開かれる18日までにギリシャが新提案を提出しなければ、ギリシャに対し要求を受け入れるかユーロ圏を離脱するか最後通告を行う可能性もあると伝えられている。ギリシャのチプラス首相はその18日から20日にロシアを訪問しプーチン大統領にも会う予定だとか。リミットは18日ではなく、25~26日のEU首脳会議まで交渉は持ち越される可能性も残る。ところで、この重要な時期のチプラス首相のロシア訪問も何が目的なのであろうか。
ギリシャのチプラス政権は反緊縮を掲げて誕生した。EUなどによる支援にはギリシャの財政改革や構造改革が必要とされるが、安易に妥協すると政権内部からの批判が高まり政権基盤が揺るぐ恐れがある。支援を受けられないとデフォルトが待っている。チプラス政権は政権内部や国民の目もあり、ぎりぎりまで交渉を続け多少でも妥協点を得て支援を受けようとしているとみられる。
ギリシャのデフォルトが発生した場合には、金融市場に大きなインパクトを与えかねない。ただし、ギリシャは2011年に債務のヘアカット(債務元本の減免)というかたちで管理型デフォルトを発生させた経緯がある。
ドイツ連銀のクラウディア・ブーフ副総裁は独紙とのインタビューで「銀行のギリシャへの直接融資は比較的小さいため、各国への直接的な影響も小さい」と述べた上で「間接的な影響がどの程度になるかは誰にも分からない」と語ったそうである(ロイター)。
今回、デフォルトが起きたとしてもいずれ支援が受けられるのであれば、たまたま発生してしまったデフォルトとして、その影響は危機的状況を招くようなことにはならないかもしれない。それより懸念すべきなのは、ギリシャが頑なに改革を避けることにより、EUやIMF、欧州中央銀行(ECB)のいわゆるトロイカからの支援が受けられなくなる事態である。これによりデフォルトが発生するだけでなく、トロイカから見放された結果、ギリシャがユーロ離脱を迫られることが予想される。
ギリシャがユーロから離脱となれば、ギリシャは統一通貨のユーロが使えなくなる。新ドラクマといった自国通貨を使わざるを得なくなる。新たな自国通貨を得てもその通貨の信用力はユーロに比べれば大きく低下するであろう。これはギリシャの金融経済には大打撃を与える。ただし、ギリシャ政府にとっては、新たな通貨を導入する際に債務を削減することも可能となる。
日本での戦後の新円切り替えと預金封鎖は、国民の財産を把握するだけでなく、それを差し押さえすることが目的であった。財産税により、差し押さえたものから強制的に徴収することで、それを原資に内国債の償還に当て、債務を減少させた。ギリシャにとっても債務削減は必要であり、同様の事態が発生する懸念がある。
これはギリシャ国民に大きな負担を強いる。通貨の変更も時間を要するであろうが、時間をかけるとギリシャから資金が流出する。すでにギリシャでは銀行預金がかなり引き出されているといった動きも出ており、ギリシャの家計と企業による4月の預金残高は2004年9月以来で最低となっていた。
しかし、金融支援を受けるには財政改革等の条件が伴う。これは日本の消費税に当たる付加価値税引き上げや、低額年金受給者への補助金廃止、医療費の国民負担の引き上げなどであり、ギリシャのバルファキス財務相は金融支援を受ける条件である財政改革案をめぐる欧州連合(EU)側との協議で「ギリシャに譲歩する余地はない」と主張している。
IMFのラガルド専務理事は、債務危機に直面しているギリシャについて、ユーロ圏からの離脱もあり得ると語った。トロイカと呼ばれたギリシャ支援団の一部から、やや突き放したような発言も出ている。これはチプラス政権というよりもギリシャ国民に対して、ユーロ離脱という選択肢はとれるのか、それで良いのかと問いかけているかと思われる。ギリシャ国民には6月末に向けて、大きな選択が迫られる。