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右肩上がりの相場シナリオ依存の危険性

久保田博幸金融アナリスト

いまさらながら1980年代の日本のバブルは何が原因であったであろうか。その発生は1986年末あたりからとされ、1985年のプラザ合意による円高や、それに対処するための日銀の金融緩和策が、日本の実態経済以上に株や不動産の資産価格を上昇させた。すでに高度成長は止まって低成長時代を迎えていたが、日経平均や地価は右肩上がりの状態が1989年末あたりまで続いたのである。

その上昇トレンドが崩れたことでバブルが崩壊した。銀行の経営などは株も土地も上昇し、急落はしない前提で行われていたことで、不良債権問題が発生し、金融不安が吹き荒れ、日本経済はデフレへと突入することになった。このあたりの分析についてはいろいろな見方もあろうが、少なくとも株と土地が右肩上がりのトレンドとなっていることが当然のこととして認識されていた事がバブル崩壊の最大の原因になっていたと思われる。

現在の日本の状況をみると地価はさておき、株式市場は右肩上がり、長期金利は右肩下がり、もしくは超低位安定が前提となって物事が動いているように思われる。

公的年金などの資産運用については、株式や海外資産などのリスク資産の比重を大きく高めてきている。ゆうちょ銀行などもその方向にあるようだが、これは株式市場などが右肩上がり、もしくは大きく下落しないことが条件となっている。

仮に1990年以降のバブル崩壊のような株式市場の下落が起きるとすべての前提が狂うことになる。ある程度のヘッジができたとしても、我々の年金資金の運用で大きなマイナスが発生する懸念がある。国債であれば途中で売却すれば損失が発生するが、少なくとも償還まで保有すれば元本は戻ってくる。

その国債についても、すでに短期債含めて1000兆円という残高となっていることで、長期金利は超低位で推移することがシナリオの前提となってしまっている。予算編成などでは長期金利の2%あたりまでの上昇も考慮しているかもしれないが、現実にそのようなことは簡単には起こらないはずであるというのが市場参加者も含めた素直な見方となっているのではなかろうか。

その背景にあるのが日銀の異次元緩和による大規模な国債買入であるが、今度はその日銀による大規模な国債買入が債券市場では当然のことのようになりつつある。つまりは、日銀の大規模な国債買入や右肩下がりの長期金利のトレンドが前提となっている。この前提条件が崩れるシナリオは本格的には準備はされておらず、あくまでひとつのリスクシナリオでしかない。

このような一方方向のトレンドの前提の上でのシナリオが崩壊した際にはどうなるのか。その際に大きな反動が来ることは、バブル崩壊時に痛いほどわかったはずであるが、どうもその反省はあまり生かされていない。現在の状況がバブルであるかどうかの判断は崩壊するまではわからない。しかし、一方向に賭けた運用には危険が伴うことも確かであろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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