国債より日銀の信認が大事なのか
10月31日の日銀の異次元緩和第二弾で賛成に回った審議委員の一人、白井さゆり審議委員は11月26日の講演後の記者会見において、「デフレマインドが転換しないことの方がマネタイゼーションより重要な問題だ」と指摘したそうである。現在の日銀の金融政策によるデフレ脱却のためならば、財政法で禁じられているマネタイゼーションを行っても問題ないと言っているようにも受け取れる。
財政ファイナンスとは、中央銀行が政府に対してマネー(資金)をファイナンス(調達)という意味であり、財政赤字の拡大に中央銀行が直接協力をするという意味となる。これは国債のマネタリゼーション(貨幣化)とも呼ばれる。政府が発行する国債を日銀が直接引き受けるこということは、政府の財政赤字に対して、日銀が資金を融通することになる。
日本では財政法で、公債の発行については日本銀行にこれを引き受けさせてはならないと定めている。つまり財政ファイナンスを禁じている。中央銀行が、いったん国債の引受などにより政府への直接の資金供与を始めてしまうと、その国の政府の財政規律を失わせ、通貨の増発に歯止めが効かなくなり、将来において悪性のインフレを招く恐れが高まるためである。
むろん財政規律を守るべき対象は政府となり、日銀ではない。従って日銀の審議委員から、マネタイゼーションよりもデフレ脱却を優先すべきとの発言があったとしても、ひとつの意見として片付けられるかもしれないし、現実にこのコメントを大きく取り上げていたマスコミもなかった。
しかし、この発言が日銀総裁からなされていたならば、現在の日銀による大規模な国債買い入れはデフレ脱却のためならば、財政ファイナンスと認識していただいてもかまわない、といったような解釈になりかねない。格付け会社による日本の格下げを招くとともに日本売りが拡大する懸念から出てくる。
たしかに現在の日銀による大胆な国債買い入れは形式的には財政ファイナンスのように見える。11月の日銀による国債買い入れ額はこの月の国債発行額を超えていた。しかし、それに対して政府は財政規律を重んじることで、財政法を無視しているわけではないとの姿勢を示している。これによりかろうじて国債の信認は維持されている面がある。それをひっくり返しかねない今回の白井審議委員の発言である。
白井委員は26日の講演において、「追加緩和」が検討され得る場合として、経済・物価の下振れリスクが顕在化して、それが中心的見通しを大きく下振れさせるケースと、金融政策に対する信認が低下したと国民・市場に見做されるリスクがあるケースを指摘している。今回はこのふたつのケースが該当したため、追加緩和に賛成したとしている。
前者は消費増税や原油価格の下落の影響による下振れのケースに該当すると認識したとみられる。後者についてはみると、この場合の日銀の金融政策に対する信認というのは、昨年4月と今回の量的・質的緩和のことを示したものなのか。つまりインフレターゲットを含めての「リフレ政策」に対しての国民の信認のことを指しているのではなかろうか。
リフレ政策はそもそも壮大な実験といわれたように、それに対する絶対的な信認など存在せず、むしろその政策効果に懐疑的な人は私ばかりではあるまい。今回のQQE2もリフレ政策の実験が失敗しそうなので、その失敗を認めたくないがために、さらに大きな実験を重ねているようにしか見えない。
そもそもリフレ政策に絶対的な信認などは存在しないにもかかわらず、それを手段として講じてしまったのは現日銀の責任でもあり、それを指示した政府の責任でもある。そのリフレ政策の信認を低下させるぐらいであれば、マネタイゼーションなどは問題とはしないとも取れる発言は、日銀や政府が守るべき国債や円の信認を毀損するものであることを白井委員は理解していないと言うことなのであろうか。今回の白井委員の発言が、もし日銀や政府の本音を代弁していたとするのであれば、非常に危険極まりないということになる。